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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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28 ドラゴンの山(12)

 空気が張り詰める。

 刃の先が、領主に向かって突き出された。


「何を……!そんな男の言うことを信じるのか!」


「もうわかってるんだよ」


「ひっ捕えい!」


 領主の護衛達がカイに襲いかかる。

 けれど、カイにとって、その程度のことはものともしなかった。

 襲いかかってくる剣を払い落とし、蹴りで相手を沈黙させる。

 カイが護衛の脚を切りつけ、血飛沫が飛ぶ。


 状況を落ち着かせれば、あとは領主一人になった。


「こ、こんなことをして!タダで済むと思うなよ!」


「それはどうかな」


 カイが、剣を振るう。

 その時、ガシャン、と屋敷の門が大きな音を立て、ドヤドヤと人が入ってきた。


 騎士団だ。


 ちょっとズルいかとも思ったが、騎士団に報告しておいた。

 証人が二人もいるのだ、話はかなりスムーズだった。

 ただの一介の騎士では領主を捕まえることはできなくとも、騎士団に話をつけることはできた。


 騎士団が揃って領主に刃を向ける。


「大人しくしろ!」


 領主は、唐突にぴゃっと両手を上げると、

「そんなバカな……」

 と一つ、声を漏らした。




「…………」

「…………」


 騎士団の詰所。

 カイとルーナは、所長と対峙していた。


「いやぁ、よくやってくれた。これでこの街も浄化出来るってもんだ。まあ次の領主を決めるのに、またもめそうだがなぁ。はっはっは」


 所長はどうやらご機嫌のようだ。

 この男にしては小さな所長机の向こうから豪快に笑った。


「で、ですね」

 カイが申し訳なさそうに口を開く。


「これって……、報酬とか、出ませんか」


 そこで、豪快に笑っていた所長の口が、真一文字に変わった。

 白い歯が、口の中に閉じこもる。


「報酬……。いや、これは仕事でも依頼でもないんでね。渡せる金はないな」


「そこをなんとか」


「いやいや、君、見てごらんよ。この街の状況を!この山を!領主に毟り取られて顎の毛一本すらないんだぞ?かわいそうだと思わんか?この街から更に金をせびるような真似をして」


 ……いや、通りすがりの冒険者をタダ働きさせるほうがどうかしてるぞ?なんて思いながらも、カイは更に追い縋る。


「俺だって、騎士の一人だよ!仕事として処理したらいいんじゃないか!?」


「…………う〜ん」


 所長が悩み出す。


「そうだな、じゃあ」


 と、所長は小さなメモ用紙に小さく金額を書いて、カイに見せた。


「こ、これ……」

 カイが叫ぶ。

「これじゃ、エビカツ二つ程度しか買えねぇよ!」


 所長がニカッと笑う。

「エビカツは美味いよなぁ」




「くそっ……」

 カイがため息を吐いた。

「また借金生活か?」

 ルーナがそんなカイを見上げる。

「まあ、また何かお仕事頑張れ場いいじゃないですか」


「そうは言っても……」

 またもや計上された馬車の修理代のことを思う。

「どんどん増える一方……」


 そこで、ポケットの中に手を突っ込んだカイは、ふとその中の小さな袋を取り出してみせた。

 そこには、あの山頂の農場で握らされた、金貨の入った小さな袋が入っていたのだった。

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