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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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23 ドラゴンの山(7)

「あの出っ張りじゃないか?」

 カイが指差した先には、一際大きな岩があった。

 そこへ、豚の“ドラゴン”がやってくる。


 あれも名前だけならドラゴンだ。

 確かにその場所は、怪しいといえた。


 二人、ソロソロとその場所へ近づいていく。

 思ったよりも、でかい岩だった。

 遠巻きにぐるりと後ろへ回ると、そこに大きな穴があることに気づく。

 そこは、洞穴になっていた。


 ブタの“ドラゴン”が、その穴へ入っていく。

 のそのそと入っていくその穴は思いの外小さく、ブタは大きなお尻をむぎゅむぎゅと押し込むように入っていく。


 そのブタの尻尾を、二人は真剣な顔でじっと見た。


 スポン、と音がしたわけではないけれど、ブタは尻尾の先まで、穴の中に入っていった。


 それからすぐ後のことだった。


「ギョアアアアアアアアア」


 耳をつんざくような、声。

 それは、確かにその穴の中から聞こえていた。


「まさか、“ドラゴン”の声なのか……?」


 キンキンとする耳を抑えたまま、二人は呆然とその穴の先を見た。

 穴の奥で、薄らと“ドラゴン”が鼻をフガフガしている気配が見えた。


 少し待つと、“ドラゴン”がその鼻を穴から出す。出てくる、と思えば、やはりお尻がつっかえ、むぎゅむぎゅとしながらその穴から出てきた。

 “ドラゴン”が行ってしまう。


 二人は、周りに、人間も、ブタさえもいないことを確認する。

「女神イニシ……」

 ルーナが呪文を唱えようとすると、カイがその口を抑えた。


「しっ」


「…………」


 ルーナがカイの顔を見上げた。


「光るのはまだなしだ。抜剣もまだしないから、周りをよく見ててくれ」

「……はい」


 岩へ近づく。

 岩の穴は、思いの外大きかった。

 ブタが、大きいため、穴が小さいように見えただけだ。

 カイが頭を少し下げるだけで、中に入れるようだった。


 剣の柄を握り、そろそろと二人、中へ入っていく。


 そこは、狭い洞窟だった。

 とはいえ、人が三人くらいは余裕で寝転がれる大きさの穴だ。


 中には誰もいない。

 チカっとカイの目に、光が差した。


「んっ」


 そう呟いたカイの声は、洞穴の中を転がり、天井に開いた小さな穴の中へ吸い込まれた。

 その瞬間、

「ギギィ……」

 と、小さな音がした。


「これは……」


「ギョアア……」


 ドラゴンの声だと思われていたそれは、カイの声に呼応し、穴の外へ大きな音を出していた。


 カイが天井を向く。

 拡声器のように広がった天井の穴から、カイの顔へ太陽の光が差した。


 その穴に、何かが挟まっているようだった。

 輪っかになっているそれは、一見腕輪のようだが、真ん中をいくつもの金属が通り、手を差し込むことはできない。


 あれは……魔道具、か。


 それが、“ドラゴン”の声を増幅し、おかしな音になっていたのだ。

ドラゴンの声はちゃんとドラゴンの声だった、ということで……。

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