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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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19 ドラゴンの山(3)

 そこは、柵で囲われた農場だった。

 小さな小屋が見える。

 その、目の前には柵が連なっている。


 柵の中にいるのはブタだ。

 ブタというには大きくて、けれどブタというしかない。


 その、ルーナより背の高いその動物たちを、どう見ればいいのだろう。


 ただ単に、ドラゴンの来る山に農場があるというだけなら、それほど驚くことではない。

 けれど、ドラゴンが来るという場所に、豚がこれほどいるのは違和感があった。


「なんだこれ」

「どういうこと、なんでしょう」


 目の前に広がるのどかな風景。

 岩ばかりだけれど、数十頭いる大きなブタ達は、ブヒブヒと鼻を鳴らしながら、元気よく歩き回っている。


 二人の視界に、小屋から、大きなバケツを持ったお兄さんが出てきたので、カイが声をかけた。

「おい、兄ちゃん。ここは……なんだ?」

「え?」


 その予想外の来訪者に少し驚きはしたものの、クリクリとした髪の青年は、大きなバケツを置き、こちらへ走ってきてくれた。

 残されたバケツには餌でも入っていたのか、

「ブヒブヒィ」

 と、周りのブタ達が容赦なく頭を突っ込み、何やら漁りはじめた。

 そんな光景にも意を介さず、青年は接客モードのような顔で、カイとルーナに向き合った。


「なんでしょう?こんなところに人が来るなんて珍しい」


「珍しい?」

 カイが疑問を口にする。

「冒険者が、時々登ってきたはずだが」


「ああ」

 農家の青年は、わけ知り顔で頷く。

「あの人達には、山の逆から降りてもらってます」


 そう言って、青年はポケットから小さな袋をカイに渡した。

 中には、金貨が一枚、二枚。

 今までも、こうやっていたのだろう。


「じゃあ、ドラゴン、っていうのは?」


「ドラゴン?」


 そこで、青年は予想外にも、農場の方を向いた。


「アイツのことか?」


「え?」

 本当にドラゴンがいるのかとそちらを凝視する。

 青年は、手を振って大きく声を上げた。

「ドラゴン!」


「え?」


 そこへ走ってきたのは、一匹のブタだった。

 やはり、ルーナより大きなそのブタ。目線はちょうどカイと同じくらいだ。


 そのブタは、少しだけ他と違っていた。

 作り物の耳と翼、それに尻尾がつけられていたのだ。

 グレーの尖った耳、トゲトゲとしたトカゲの延長のような翼、それに、トゲトゲとしたトカゲの尻尾のような尻尾だ。


「ドラゴン?」


 そのつけられたパーツは、“ドラゴン”を彷彿とさせた。カイが思わず、そう言ってしまうほどに。


「おお!よくわかったな!こいつがこの山のドラゴン様だ!」


「いや、そんな冗談じゃなく……」


 とカイが言ったところで、はたと気づく。

 もしかして、ドラゴンなんていないのか?

二人はドラゴンを退治してしまうのか!

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