16 草刈りの依頼(5)
黒い蔓が燃える。そして、その火の粉ごとキッチンの中で霧散する。
それは、ルーナにはなんだか儚い何かのように思えた。
赤い粒が広がり、目の前で消えていく。
そして当たり前だが。
息を吐く二人の前で、乾燥した床がボワッと火を噴いたのだ。
「うわわわわわわ」
「きゃあ!」
「やばいやばいやばい!借金が増えちまう!!」
慌てて火を消しにいく。
足で踏み消そうと思ったが、すでにそんな大きさじゃない。
「これはどうですか!?」
ルーナが持ってきたのは大きな鍋だった。浅型の鍋なので、これで叩けば案外うまくいくかもしれなかった。
「よし!」
カイが気合いを入れ、鍋を受け取った。
そしてそれから、鍋を被せたり水をかけたりしながら、なんとかその火を消し終える。
「ちょっと床が黒くなっちゃいましたね」
実際、その床は数十センチほどの直径で、黒く焼けこげていた。
「あー。大丈夫大丈夫。そもそも魔物がやっ……」
それは一瞬だった。
そしてそれは、きっとその植物の中から魔物がいなくなった証拠でもあったのだろう。
舞っていた火の粉は植物に触れると、一気に植物を燃やし始めていった。
パン焼き窯から植物を伝い、燃え広がる。
「うわ!あっちぃ!!」
それが全て頭上なものだから、立ち止まっていると自分達まで火に飲まれてしまいそうだ。
「きゃああああ!!女神イニシエ!!」
二人で走り出す。
「留まりし力よ、照らされし地に降り、共に立ち上がりなさい!!女神イニシエの名の下に!!」
唱えながらも、ルーナはカイに抱え上げられる。
光を纏った二人は、なんとか火に耐えつつも、半泣きで廊下を走り出す。
走る炎と追いかけっこなんてするもんじゃない。
絶対に、追いつかれない速さで走るなど不可能だからだ。
頭上から、火の塊が落ちてくる。
壁が燃える。
後ろを振り返れば、すでに床からも大量の火が噴き出している。
「あっちぃぃ!!」
なんとか炎に耐え、玄関を飛び出す頃には、屋敷は屋根から火を立ち上らせていた。
「…………」
二人、無言で燃えていく屋敷を見上げる。
玄関から火が噴き、黒い煙がもうもうと上がる。
ガゴン、と大きな音がして、屋敷の裏手が半壊した。
みるみる間に、目の前で、屋敷が消し炭になっていく。
燃え広がった火は、柵の中の雑草を一掃した。
一掃した、けれど。
「これさ……」
「……はい」
「借金に加算されないよな……?」
ルーナは改めて辺りを見回した。
目の前には、大きな黒い塊。
燃え残る火と、燃えていく雑草。
遠くには、こちらに走ってくる男性の姿が見える。ここの様子を見にきた依頼人なのだろう。
「えっと……、どうでしょうね」
ルーナは、ちいさく苦笑した。
一件落着ということで!




