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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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15 草刈りの依頼(4)

 その扉は、太い蔓によって、すっかり壊されていた。

 カイが抜剣した剣を構える。


「まさかこの扉代、俺らの借金にならないよな?」


 一人呟きながら、蔓に切りかかっていく。

 ルーナの強化魔術があるからか、蔓はさっくりと切れた。


 ルーナの強化魔術は、不思議だった。これが魔術なのかと思うほどだ。

 抜剣詠唱をしても、この身体はただの自分でしかなかった。

 いくら剣に力があっても、生身の身体では、入る力も飛び込める場所も限られてくる。

 けれど、ルーナの強化魔法ならば、その制限がかなり緩やかになる。戦えるようになる。


 正直、快感だな。


 扉をくぐるため太い蔓に切り掛かりながら、カイは思う。


 扉をくぐると、パチパチと音がしていた。

 そこは、キッチンだった。

 屋敷の大きさに合わせて、かなり大きなキッチンが設えてあった。

 広いテーブルの上に横たわるのは、その直径がルーナほどもあるんじゃないかと思えるほどの太い蔓だ。

 床にも、天井にも、それほど太い蔓が、部屋の中にへばりついていた。

 ギィギィという蔓による屋敷の軋みは、今にも床や壁を割ってしまいそうだった。


 そして、その蔓が飛び出てきている中心で、火か燃えていたのだ。


 それは、大きなパン焼き窯だった。

 その、炎が見える大きな口から、その蔓は飛び出してきていた。


「うっわ、キモいな」

「植物なのに、炎が……」


 パン焼き窯では火が燃えているというのに、植物に燃え移る様子がない。蔓の表面が特殊加工でもされているのだろうか。


「とりあえずここ、やってしまうか」


 カイが剣を構えると、空気が割れるように張り詰めた。

 剣を、パン焼き窯の中に突き刺す。

 蔓に、切れ目が入る。


 そこからだった。


 その蔓の切れ目から、黒いものが飛び出したのだ。

 それは蔓だった。

 いや、蔓だったと言っていいかわからない。

 ただ、蔓の形をした魔物だった。


 飲み込まれそうになる。

 けれど、すんでのところで蔓に触れずに済み、そのままカイは蔓を切り落とす。


 ズザッ!


 キレのいい音がして、切れた蔓が霧散した。


「ここに魔物が入り込んでたのか」

「これ、切ってしまえばかなり作業が楽になるかもしれませんね!」


 ルーナが錫杖を構える。


 黒い蔓は、一斉に標的をルーナに変更したようだった。

「きゃあ!」

 黒い蔓に足首が掴まれ、引き倒される。

 カイがルーナを受け止め、その黒い蔓を切り落とした。


「運動能力も鍛えないとな!」


 そう言いながら、カイはパン焼き釜を破壊する勢いで、蔓に剣を叩きつける。

 炎が上がり、黒い蔓の火が飛び移る。

 弾けるような火花が起きたかと思うと、黒い蔓は燃え尽きた。

魔物退治!ということで。まあ、このあとはどうなるかわかるな……?

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