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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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12 草刈りの依頼(1)

「私、新人の見習いですか?」

 なんてルーナが聞いたのは、数日後、この惨状を知ったディーが用意した新しい依頼を受けたところだった。




 ディーは依頼を用意する時、盛大にため息をついてみせた。

 何せ、依頼主がまともではなかった上、一斉に捕まってしまって、報酬を払う人物がいなくなった。

 借りた馬車は壊れており、弁償しなくてはいけなくなった。

「馬車代はもちろん、借金に上乗せしておくからな」

「そんなぁ……」

 カイががっかりした顔を見せた。

「俺たち頑張ったんだよ?魔物とも戦ったし、殺されそうにもなったし」


 そんな風に盛大なため息と共に差し出されたのは、『草刈り』の依頼だった。


「草刈り」


「これは、比較的信用できる相手からの依頼だから、プラスになって戻ってくるだろ」


「屋敷一個分か。まあ、頑張るか」




 そこから半日かけてやってきたのは、森の中にある大きな屋敷だった。

 ギィ、という音を立てて、門が開く。

 とはいえ、誰も出てこない屋敷は、なんだか誰も住んではいないみたいだった。


「これはすごいな」


 そうカイが呟くくらい、屋敷は草で覆われていた。

 カイとルーナが、キョロキョロと見回す。


 庭も草だらけなら、屋敷にまで蔦が縦横無尽に張っている。

 シンプルながらも光がたっぷり差し込まれそうな窓は、どこもあまり拭かれてはいないようで、白く濁って見えた。


「これを刈ればいいんだろ?この門の内側を全部」


 カイが袖をまくる。


「女神イニシエ」

 ルーナが詠唱を始めた。

「留まりし力よ、照らされし地に降り、共に立ち上がりなさい。女神イニシエの名の下に」


 光が、二人の身体に纏っていく。


「ありがと、ルーナ」


 そして二人は、その屋敷の庭らしき部分の掃除を始めた。




 最初は要領を得なかった。

「こう、か」

 けれど、なんとか上手くできるようになってくる。

 力の上がった手で、草の根本をギュッと掴み、一気に引き抜くと、なんとか抜ける。


 どれだけ根が張っているのか、気が遠くなるような作業だった。


 2時間働いたところで、膝ほどの長さの草は、ルーナが手を広げた分の幅しかなくなってはくれなかった。


 錫杖を持ち、ルーナが屋敷を眺める。

 ここで数時間働いているけれど、誰かが様子を見にくる気配も、窓から誰かが覗くような気配も見当たらない。


「もしかして……」


「え?」

 カイが膝立ちになり、ルーナのことを見上げた。


「屋敷の中も、草だらけだったりして……」


 不安そうな顔のまま、ルーナがそう呟く。

 カイが、焦点を屋敷に合わせる。


「まさか」

 苦笑する。

「まさかだろ」

新しい依頼……。この子達、いつ旅に出られるのか。

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