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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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8 何の魔術を使ってた?(1)

 馬車に偽聖女を入れ、紐でぐるぐる巻きにした。

 長い紐自体は、馬車に積んであった。もしかすると、カイとルーナを捕まえた時に使うつもりだったかもしれない紐だ。

 そして、水の街に戻ることにしたのだ。


 カイはそこで騎士団に引き渡すつもりだった。


 この国では、治安を守っているのは騎士団だ。

 基本的に街には数人から数十人の騎士団が常駐している。その騎士団が街の教会と連携して街の治安を守っている。

 それで足りなければ、自警団を作り騎士団と連携して治安維持に努めるのが基本だった。


 二人、再度御者台に座り、ガタガタと走る馬車の音に耳を澄ます。

 そしてギギッなんて、音がする時は、カイの顔が強張った。


「この馬車のレンタル代、いくらしたと思ってるんだよ……」


 ルーナはそれを聞いて、苦笑するしかない。


「偽物の聖女捕まえた報酬とかないかな……」


 そんなカイの言葉を嘲笑うように、馬車の中から、ガタン、ゴトン、と暴れる音がした。


 偽聖女の錫杖は、取り上げ、馬車をぐるぐる巻きにしている紐に一緒に結びつけてあった。

 とはいえ、錫杖がなければ魔術が使えないというものではない。

 魔術を覚えていないルーナが、かつて力を無意識に使っていたように、偽聖女であってもある程度は使えると考えるのが自然だ。


「何の魔術なんだろうな」


 カイが突然、ふむ、という顔をした。


「土が盛り上がってたし、土か?」


 ルーナが思い返す。


「確かに盛り上がってましたけど……土が操られて動いているようには見えなかったです」


「そ、か」


「じゃあ……」


 じゃあ、なんて考える間に、すでに馬車は、水の街ハルに到着してしまっていた。





「じゃあ、俺はこいつ引き渡してくるから。ルーナは食事になりそうなもの買っておいて。日持ちしそうな食料も」

「はい」


 ルーナは、カイと少し斜めに歪んだ馬車を見送り、一人、街を歩く。

 教会に程近い場所は、山をぐるりと取り囲むように店が立ち並んでいる。

 その中でも、下側が冒険者用の店。上の方が食事や雑貨といった、観光地とも日常の店ともつかぬ店が立ち並んでいた。


 どこの店からもいい香りが立ち上る。

 水が豊富なだけあって、スープや煮込み料理の店が多いだろうか。


 あ、ドライフルーツ。

 あれなら、ポケットに仕舞い込める。


 ルーナは、木苺のドライフルーツを、小さな袋ひとつ分買った。


 カイが戻ってきたら、一緒に食べよう。


 その時だった。

 足元を流れる水に足を取られる。

 少しだけバランスを崩し、立て直す。

「あれ……?」


 ルーナは、偽聖女の操った土のことを思い出した。

 ここは水の街ハル。

 もしかして、水で押し出してたのかな。


 だったら……。


 ルーナは、錫杖を握りしめる。

 カイが行ったはずの騎士団の方角を見つめた。

木苺のドライフルーツ、美味しそう。

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