7 聖女の力(3)
「でも、」
聖女の表情が崩れていく。
「みんなが、これが聖女だって言うんだから、もうこれでいいじゃない?」
泣きそうな顔だった。苦しそうな顔だった。
「もう、限界なの」
聖女の、錫杖を掴む手が震える。
「これをすれば、ご飯が食べられるはずよ。毎日毎日」
顔が、ワナワナと震える。
「わかってちょうだい!」
聖女が、錫杖を掲げた。
それは、魔術ではなかった。
“合図”だ。
黒い魔物達が、カイとルーナに襲いかかる。
「なん……だと……!?」
人間が、魔物を使役するっていうのか?
今更ながら、カイは、これが魔王に寝返った人間の所業なのだと合点がいった。
魔王の元にいるのは魔物ばかりではない。
オルディオだって言っていたじゃないか。
実際には、魔物よりも数倍の人間が、魔王に加担していると。
剣に魔物が取りつく。
剣はわずかばかり歪められ、魔物は切り落とされる。
けれど、魔物としてはそれで十分だったのかもしれない。
少し剣先がそれたのをいいことに、魔物はどんどんとカイとルーナに襲いかかる。
「女神イニシエ」
ルーナがまた、さきほどの魔術を使う。
「留まりし力よ、照らされし地に降り、共に立ち上がりなさい。女神イニシエの名の下に」
光の粒が、カイの周囲にまとっていく。
それは、強化魔術だった。
意識は鋭く、その身体を使った限界まで、重く激しい剣を振るうことができた。
「我が身に刻まれし誓約、──抜剣」
そしてそれは、勇者オルディオほどではないにしろ、抜剣詠唱を使うカイを強化する方法としては、最適なものだった。
飛びかかった魔物達はその剣に薙ぎ払われる。
カイが全てを薙ぎ払った時、残ったのは聖女だけだった。
「どうする?」
カイが声を上げる。
それは、聖女にかけた最後の選択の言葉だと思われた。
けれど実際のところ、それは聖女を守るための言葉だった。
人間をこの手で切る必要がないように。
この剣に人間が散ることのないように。
「どう、って?私があなた達に屈服するわけがないのよ。これも魔王様の計画の一部。私達が捨てられるなんて、あり得ないのだから」
聖女は震えていた。
ルーナは、その震えを見逃すことが出来なかった。
「聖女様は、そんな人ではありません」
ルーナが声を上げる。
「本物の聖女様なら」
カイがしてくれた聖女の話を思い出す。
聖女は、まるで本当に、光のような人。
「でも……っ」
声をあげようとした偽の聖女が、ルーナを見る。
ルーナと目を合わせる、
自分の手を見る。
「ああ……っ」
偽の聖女はくずおれ、その場にヘタりこんでしまった。
そこで、この戦いは終わりを迎えたのだ。
一件落着ということで。




