6 聖女の力(2)
ルーナは、カイに覆い被さってくる黒いものを見た。
こんなのダメ。私だって動かないと。
私が、動かないと。
ルーナが、心の中にあるあの本を必死で捲る。
こんな時、役にたつ言葉はあるだろうか。
女神イニシエ。
「女神イニシエ」
ルーナが錫杖を握る。
声は、自然と出てきた。
あとは、頭の中に浮かんだ言葉を口にするだけだ。
「留まりし力よ、照らされし地に降り、共に立ち上がりなさい。女神イニシエの名の下に」
錫杖が、一瞬だけ光を吸収する。
そこから解き放たれた光は、カイを護るようにカイの周囲に薄く膜を張る。
そして、カイのより一層鋭くなった剣筋で、カイは覆い被さってきた魔物に剣を突き立てた。
魔物が霧散していく。
カイが、自分の身体に視線を走らせた。
「これは?」
カイの身体には、見えないほどの光の粒が張り付いているようだった。
それによってカイの感覚は鋭くなり、身体は軽くなる。
けれどルーナは、カイの質問に答えることはできなかった。
自分でもわからないのだ。
ただ、なんとかしたいと思っただけ。その瞬間に、思いついた言葉を口に出しただけなのだから。
そしてその間も、馬車から這い出てきた聖女の魔術によって、魔物達はバッタバッタと薙ぎ倒されていた。
カイは、ルーナと自分に降りかかりそうな魔物を倒すだけでなんとかなってしまうほど、聖女は周囲の地面を隆起させていた。
魔物が一通りいなくなると、聖女がにっこりと微笑んだ。
「こんな、自慢みたいにするつもりではなかったんですけれど」
「ああ。すごいな」
ルーナは少しだけ、ドキリとした。
カイがすごいと思うのは、やはり聖女の力なんだ。
聖女は、最後のダメ押しに、地面を隆起させ、馬車を立ち上がらせてみせた。
「じゃあ、旅の続きといこうか」
馬を落ち着かせようとカイが馬に向かう。
そのカイの表情は、少しだけ、強張っていた。
聖女が馬車に乗り込もうとする。
「では、護衛のお仕事、よろしくお願いしますね」
聖女がニッコリと微笑む。
カイが、一歩、聖女の方へ近付いた。
手に持った、抜剣したままの剣を、聖女へと向けた。
聖女は、ただ黙ってその剣先を見つめた。
聖女は悠々と、
「何かご心配なことでもありましたか?」
なんて言う。
カイが、静かに言う。
「なんで、聖女の真似事なんてしてるんだ?」
「どうして私が、聖女じゃないなんて?」
「だって聖女は……、光の聖女は、光を集めてそれをみんなに渡す役なんだろ?じゃあ、お前は違うよな」
「そうね、確かに、違うかもしれないわ」
魔術師なのは間違いないです!




