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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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5 聖女の力(1)

 ルーナが錫杖を握る。


 ガッ!


 馬に魔物がぶつかってくる。

 ガラガラと音を立てて、馬車が横倒しになった。


「きゃあああ!」


 カイがルーナを抱え、そのまま背中から地面に着地した。


「大丈夫か?」

 周りの様子を窺いつつ、カイが静かに言う。

「はい」

 ルーナは錫杖を離すことなく、前を向く。


 護衛対象は無事だろうか。

 横倒しになった馬車の中が気にかかる。

 けれど、今扉を開けると魔物も餌食になってしまうかもしれない。


 二人がまた魔物に立ち向かおうとした瞬間。


 ガチャリ、と、馬車の扉が開いた。

 ゆっくりと扉が開け放たれる。


 カイは、何も言わなかった。

 護衛対象とはいえ、相手は“聖女”と呼称される人物だ。戦えるものなら戦力になってほしいと思っているのかもしれなかった。


 馬車から出てきた聖女は、その綺麗な瞳のまま、扉から顔を出した。

 錫杖をガチャリと横倒しになった馬車の上に置くと、馬車の扉から這い出てきた。

 横倒しになった馬車の上に立ち、錫杖を構える。


「あなたたち魔物が、この世界を悪に染め上げているのですね」


 朗々と、聖女が声を上げる。


 カイとルーナだけでなく、魔物達全てが、聖女に反応し、注目した。


 聖女が掲げる錫杖に。


「女神イニシエよ!我の命に従い、裁きを」


 聖女が声を上げると、地響きが起きる。


「……え?」

 ルーナが一瞬、声を上げる。


 カイが異変を察知し、またルーナを抱えた。


 ルーナが状況を把握する間もなく、地面がボコリ、と大きく盛り上がる。

 その地面に突き飛ばされた魔物が、空へ突き飛ばされ、そのまま四散した。


「え!?」

 カイとルーナも目を見張る。

 巻き込まれないよう、カイが馬車周辺から飛び退った。


 その間にも、聖女は、一匹、また一匹と地面の隆起で魔物を倒していく。


「すごい」

 カイが呟く。

 すごいが……、これはなんだ?


 カイが知っている聖女の力とは、似ても似つかないものだった。

 カイは、かつての聖女を思い出す。

 あの人は、こんな力を見せたことはなかった。

 ただ、もっと清らかで、笑顔の溢れる魔術だった。


 ルーナの表情も固くなっている。同じような事を考えているんじゃないかと、そう思う。


 それでも、そちらにばかり注目しているわけにもいかず、カイはルーナをそばに立たせ、抜剣したままの剣を振るった。

 一匹、また一匹と魔物が倒される。


 カイの剣が一閃した瞬間、カイの足元の地面が、聖女の力によって盛り上がった。

 カイが、一瞬足を取られる。

「うわ……っ」


 バランスを崩したカイが、地面にしゃがんだ状態で着地した。

 けれど、魔物の動きの方が、一瞬だけ速かった。


 魔物の身体が、カイへ覆い被さった。

戦闘シーン、続きます。

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