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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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3 護衛の任務(2)

 聖女。

 それは、女神イニシエの加護を持つ女性魔術師への呼び名である。

 女神イニシエは、浄化の加護をもつ。魔を浄化し、勇者を探索する。

 聖女自身が救世主なのではない。

 けれど、救世主へと繋がる鍵として、世界で重要な人物として扱われてきた。


 女神イニシエの加護を持つものは少ない。

 能力者を見つけ出すことができず、何十年と経ってしまうことも多い。

 大抵は、数十年、ないしは百年ほどに一人という割合で、聖人・聖女が教会に登録されている。


 女神が重要な人物としての扱いを受けるのは、この国とて例外ではない。

 王族と特別な繋がりを持つ教会として、王都の中心に、見上げても見えない大きな教会を所有するのが女神イニシエ教会である。




 そして、その聖女だと水の教会の魔術師が呼んだ女性が、今、カイとルーナの前に、現れたのである。


「聖女?」


 以前の聖女が失われてから6年。

 このような短期間に、聖女が見つかったことはない。

 けれど、これはただ魔術師かどうかの問題で、理論上、二人、三人と同時に存在してもおかしくはないことだ。


 その部屋にいた女性が振り返る。

 長い黒髪を横で纏めていた。

 かつての、聖女のように。


 やめてくれ。


 カイは、そう思う。


 彼女を思い出させないでくれ。


 かつて、この手の中から消えてしまったあの子のことを。


 かつての聖女のような髪型で。

 かつての聖女のような微笑みを湛え。


「騎士様ですね」


 そう、言ったのだった。


 ルーナが女性を見上げる。


 聖女と呼ばれる人。20歳くらいだろうか。

 綺麗な、聖女らしい大人の空気を纏う女性。




 四人は部屋にあったテーブルについた。

 どこからか、魔術師の女性が、一度お茶を入れにきた。


「聖女、なんですか?」


 さっそく、唐突にカイが尋ねる。


「ああ、驚かれたでしょう」

 魔術師の男性が、ニコリと笑った。

「確かにこの方は、女神イニシエの加護を持つ方です。光を、見てしまったのですよ」


「光」


 カイは、かつて見た光の魔術を思い出す。

 聖女の光。

 あれを見てしまったなら、保護しなくてはいけないと思うのも、自然なことのような気がした。


 聖女とカイが、向き合う。


 ルーナはただ、カイの隣で、その二人を見ていることしか出来なかった。

 そこでカイが、何かを通じ合わせたのだとしても。

 そこでカイが、何かを思い出したのだとしても。


 つ、と、教会の魔術師がルーナの方を見た。

 目が合う。

 魔術師は真顔で、ルーナを観察しているようだった。

 虚無の目だと、そんな風に思う。


 ルーナは、慌てて目を逸らした。


 ルーナがまた目を上げると、魔術師はニコニコとした笑顔に戻っていた。

さて、謎の聖女が登場です!

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