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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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2 護衛の任務(1)

 その教会は、この街の象徴だった。

 それほど大きな聖堂というわけでもない。けれど、そのこじんまりとした教会から湧き出る水によって、街全体が大きな教会のように見え、権威を象徴するためだけなら十分だ。


 教会の正面も、冷たい水が足首まで広がっている。

 両開きの扉は閉まったままだ。

 けれど、二人が扉を開くと、扉は音もなく二人を迎え入れてくれた。


 中は、明るい砂の洞窟のような場所だ。

 壁は固められた粘土材そのもので、丸みを帯びた壁が、ちょうど球体の内側のように見えた。


 しずしずと近づいてきたのは、この教会の魔術師のようだった。

「ごきげんよう」

 年齢不詳のその男性は、声を出しても年齢不詳のままだ。


「ああ。この依頼を受けた冒険者だ」


 カイが依頼書を見せる。


「ああ〜!」

 魔術師は、少し驚いた顔を見せた。

「来ていただけましたか!護衛がいないとこの教会から出すわけにもいかなくて。なにせ、この国の重要人物なわけですから」


「そんなに大事な人間なのか」


「そりゃもう」


 カイは、一瞬勇者の顔が思い浮かぶ。

 どこかに保護されているのではないかと、そんな夢を見る。


「それで、」

 教会の魔術師はあたりを見まわしながら言う。

「残りの護衛の方は、どちらに?」


 やはり、騎士と子供の魔術師だけでは、護衛として弱いだろうか、とカイは思案した。

 カイは正式にこの国の騎士ではあるので、一人で小さな護衛任務を受けることもある。

 けれど、子供を連れた今の状態では、正直外から見れば怪しい冒険者にしか見えないだろう。


「いや、いないんだ」

 教会の魔術師の顔が、一瞬だけ真顔になる。

「けど、この子の魔術があれば……」


 なんて、カイがルーナの売り文句を言葉にしかけたところで、教会の魔術師は、ニッコリと笑った。

 一瞬真顔になったのを、その笑顔で上書きするみたいに。


「大丈夫です。強そうな騎士様で安心しました」


 教会の魔術師は、カイのマントについていたブローチの騎士の刻印をめざとくも見つけたらしい。

 カツカツと、床を靴で叩きながら、教会の奥の部屋へ案内された。


 両開きの扉の前。

 壁と似たような砂色の扉は、それほど重そうには見えない。


「ここにいる方を、王都へ護衛していただきたいのです」

「王都へ?」


 やはり、本当に要人なのだろうか。

 馬車なんかがあれば、王都でもそれほど困ることはないだろう。

「馬車はあるのか?」

「いいえ、ございません」

「馬車を借りる必要はある。必要経費はもらえるんだろうな?」


 その返事を聞く前に、教会の魔術師は扉を開ける。


 中にいたのは、一人の女性だった。


 カイは、後ろ姿を見た。


「護衛というのはこの方、新しい聖女様を守っていただきたいのです」

前髪ぱっつんにしてそうな魔術師さんだなぁ。

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