1 新しい旅路
「あれが水の街ハルだ」
カイがそう言って、ルーナはやっと顔を上げた。
いい加減、何時間も歩き通しで疲れてきたところだった。今、魔物に襲われれば、ひとたまりもないだろう。
水の街ハル。
それは、まるで浜辺に作る砂の城のような場所だった。
粘土を一塊にしたような縦に長い建物。
そしてその建物の上でバケツをひっくりかえしたように、街のいたるところに水が流れ、川となっていた。
「ここの教会で、護衛のお仕事なんですか?」
宝玉のついた長い錫杖を抱くようにかかえ、白いローブを揺らしながら、ルーナが尋ねる。
「そうらしい。詳しい話は書いていない。要人なので、詳しくは書けないそうだ。そういう怪しい案件を、あのじいさん押し付けやがったらしい。依頼人も要人本人も、正体が掴めないからまずそこからやってほしいそうだ」
「正体?」
「ああ。魔王側の人間か、もしくは金の払えなさそうなヤツか、依頼で悪事を働こうとするヤツだったら、依頼料をもらわずに帰ってこいということだ」
「そんな状況で……払い切れるんでしょうか」
そうなのだ。
今回、どうしてこんなあやふやな依頼を受けなければならなくなったのかといえば、ルーナのローブの代金だからだ。
魔術のこもった魔術道具でもあるローブを、持ち逃げする気にもならず、言われたままの依頼をこなすのに精一杯なのだ。
カイは思い出す。
あのじいさんの微笑みを。
あのじいさんの事だから、どんな魔術が仕込まれていても不思議ではないような気がした。
依頼主である水の教会を探し当てるのには、それほど時間はかからなかった。
立体的な街ではあるが、坂が多いだけで、それほど困るような細い路地もない。
ルーナは、足元に流れる水の流れに足を浸しながら、歩いた。
実際、もっと小川のようになっているのかと思いきや、通路にそのまま水が流れている場所が多い。
「水の教会には、水の神様が祀られてるんですか?」
「ああ。そういうことになるな。けど、詳しい話を求めるなよ?俺は神なんてものには詳しくない」
「大丈夫です」
この世界に、神や女神はたくさんいる、というのはルーナも知っていることだった。
ただ一つ、聖女を輩出する女神イニシエの教会だけは王家とも縁の深い関係ではあったが、それ以外の協会は、細々と魔術師を抱えて活動をする教会がほとんどだった。
魔術師の能力を発現させる者が消えることはない。
つまり教会が潰れるような事はないのだが、かといって、小さな教会では、工夫をしなければ毎日のご飯も満足に食べられないというのが現状だった。
街の高いところまで登れば、目の前に、周りの粘土のような街並みと一体化した、大きな教会が現れる。
周りの岩からは水が湧き出ており、街のいたるところにある川は、ここが出どころなのだとわかった。
全体で第70話となりますが、第1話ということで改めてよろしくお願いしますね!




