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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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✠騎士編 3✠ 魔術の片鱗

 ルーナは、姿見の前に立つ。

 痩せ細った身体。

 足首と足首を繋ぐ重い鎖。

 ボサボサの頭。

 背は低く、これでは10歳くらいにしか見えない。

 もう、14歳なんだけれど。


 ガリガリのお腹や胸をさする。


 カイはどんな女の子が好きだろう。


 ふと思う。

 いつだって。いつまで会えるかわからない人。

 この間、勇者のことを探らないとと言っていたから、もしかしたらもう王都へ旅立ってしまったかもしれない。


 けれど、思う。

 もし、また会えたら嬉しい、と。


 どっちにしたって、こんなガリガリの女の子が好みなわけがないのに。


 ため息をついて、埃だらけの小さな部屋から出る。

 部屋の隣は店の倉庫。その奥がもう店だ。


 店を出ると、井戸へ水汲みに行かなければならない。

 手をぐっぐっと握りながら、また重い水を運ぶことを考える。

 その時だった。


「ルーナ」


 呼ばれて、

「はい」

 慌てて返事をした。

 店のオーナーであり、ルーナを金で買った主人、ドウタがそこにいた。


「今日は水汲みはいい」

「え?」

『水汲みはやらなくていい』という言葉ほど、ルーナにとって緊張する言葉はない。何故なら、いつだってもっときつい仕事を押し付けられるから。


 そしてその日も、それは予想通りだった。

「この書類を、街外れまで持って行ってくれ」

 そして、クルクルと丸められ、封をされた書類を持たされる。

 馬車に乗り、入り組んだ家の間を歩かなくてはならない。

 馬車代はくれるのだろうか。

 疑問に思いながらも、

「はい」

 ルーナは、そんな返事しか持ち合わせていなかった。


「歩いて行けよ」

「……はい」




 ジャラジャラと音を立て、ルーナは裏通りを抜けて行く。

 こんな鎖をつけて、こんなボサボサの髪で表の通りに出るのは、憚られた。

 手には、ただ丸められた書類のみを持つ。


 薄暗い通り。

 背の高い塀。

 右には木の扉が2つ。左には格子に鍵がかかったどこかの敷地の入口。


 裏通りを通る時は、いつだって何処か逃げ道はないか見ながら歩く。

 それだけ、襲われる人が多いのだ。


 何も出て来ないでください。何も出て来ないでください。


 心で祈りながら、歩いたけれど、そううまく行くものでもなかった。


 ルーナの目の前には、ギ、と扉の裏から出てきた、ナイフを持った男が立った。


 怖い……。


 後ろを振り返る。

 逃げようと足を二、三度動かした。

 けれどそこで、後ろにも人が道を塞いでいる事に気が付いた。


 そんな……っ。


 じわじわと近づいて来る。


「いやぁっ!」


 そこで、裏通りに声が響いた。


「我が身に刻まれし誓約、──抜剣」


 ……え?


「な、詠唱だと!?」


 ナイフの男達が振り返るそこに立っていたのは、紛れもないカイだった。

 詠唱によりガキン、と剣を鞘から引き抜く。

 その瞬間、空気が凍結した。誰もが、そう思った。

 息を吸うのも意識しなければ出来なくなる、そんな空気の張り詰め方だ。


 そして、カイはその剣を振るう。


 ガン!


 剣先が動く姿を、誰か捉えられただろうか。


 あっという間に、一人目の男が倒される。


 それを見た二人目の男は、もう自暴自棄と言ってもいいものになっていた。


「こ、この娘がどうなってもいいっていうのか!?」


 男がナイフを振り上げる。


「きゃあっ」


「ルーナ!!」


 バキン……!


 その瞬間、ルーナの耳のそばで音がした。

 硬いものが何かに弾かれた。

 そこには何もない、ただ、襲いかかってきた男が、ナイフを叩きつけたのだ。


「なんだ……?」


 カイは目を疑う。


 ナイフを弾くその力は、確かに魔術の片鱗だった。


 一瞬だけれど、かつてカイの前で、魔術を使ってみせた人を思い出した。


 カイの顔が、苦しげに歪む。


「魔術。魔術か」


 カイは、ルーナを助ける為、剣を握り直した。

ルーナは魔術の素質があるようですね!!

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― 新着の感想 ―
★★★★★ 面白いですね! つづきが気になります! 情景描写が美しく、感情移入しやすいです 応援しています!
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