✠騎士編 28✠ 町を訪れた聖女(9)
二人は、いつもと同じように、風の通る丘の上にいた。
聖女は、いつもの大きな切り株の上で、膝を抱えて座っていた。
どれだけ綺麗な聖女の服でも、そうやって膝を抱えてしまえば、それは小さな少女でしかなかった。
「どうした?」
カイは声をかける。
「帰る日が決まったわ」
「そう、か」
聖女がこの町に来てから、実に半年以上もの月日が経っていた。
「寂しくなるね」
パッと、聖女がカイを見上げる。
その聖女の姿にドキリとしたのは、そんなまっすぐな視線を受けたのが初めてだったからだろうか。それとも、言葉がいつになく素直だったからだろうか。
「ああ。寂しくなる」
カイも、気づけばいつになく素直な言葉を発していた。
青い空の下だった。
明日も、また会えそうな気がする、いつもと同じ風が吹いていた。
「俺、さ」
カイは言葉を探す。
この瞬間のこの気持ちに、ピッタリと合った言葉を。
そしてその少し怪訝な瞳の奥をじっと見た時、なんだかこれだ、と思った。
「俺、聖女様のこと好きだ」
「え……?」
菫色の髪がビクリと少しだけ飛び跳ねた。
少し面食らった顔をしてから、抱えていた膝をきっちりと下へ降ろした。
けれど、聖女は悩むことがなかった。
悩む必要がなかった。
だってもう、答えは決まっていたから。
「私もよ」
聖女がカイの前で笑う。幸せそうに。
「私も、騎士見習いさんのこと、好きだわ」
それは、たった今、二人が見つけたかもしれない気持ちだった。
二人は、こんな会話になってしまったことを少しだけ恥ずかしく思いながらも、お互いを見つけられたことに少しだけ高揚を覚えた。
お互いに名前を知らない事など、もうどうでもいいと思った。
その日から、聖女一行が旅支度をするまでの数日、二人はずっと一緒にいた。
「今日はさ、フルーツサンドを持ってきた」
そう言いながら、カイが小高い丘の上のてっぺんに大きなキルトを広げた。
絵柄というよりも模様ばかりが入った、緑と白のキルトだ。
「あら、美味しそう」
聖女がフルーツサンドを手に取る。
イチゴやリンゴ、それにモモまでもがパンの間に、生クリームと一緒に綺麗に収まっている。
相変わらず幸せそうに、聖女はフルーツサンドを頬張る。
「ふっ」
それを見たカイが、堪えきれずに笑う。
「美味しいのよ?」
「わかってる。俺が作ったんだから」
「え?あなたが作ったの?」
「そうだよ。俺はどこかのお嬢さまとはちがって自分でアップルパイも作れるからな」
聖女が目を白黒させる。
それは、永遠を約束されたかのような時間だった。
それとも逆に、すぐに終わってしまいそうな数日を、永遠に変える作業だったのかもしれなかった。
過去編ももういよいよ終わりです!




