⌘勇者編 27⌘ 君といる決意
「後悔するかもしれない」
オルディオはそう静かに言う。
そして、すぐに言い直す。
「後悔すると思う」
そうとしか言いようがない旅路だった。
これまでも。
勇者に任命されてから、それほど長い時間を過ごしたわけじゃない。
けれど。
たくさんの人が死んだ。
善き人が死んでいくのを見た。
悪しき人はこの手で殺した。
そこに、ミーリアを連れて行くのは地獄の旅路だろう。
けれど、そんな地獄すら受け入れてしまいたくなるほど、ミーリアがかわいかった。
手放したくはなかった。
「あたしのことなら、大丈夫」
二人で、全てのことから逃げるように安宿に入った。
締め切られた窓が、風でバタバタと動いた。
硬いベッドには気休め程度の白いマットが敷かれていた。
小さな木製のテーブルが置いてあったが、椅子のようなものはなかった。
ただ、それだけの小さな部屋だった。
あまり、明るいとは言えない部屋だった。
けれど、不便だとは思わなかった。
ただ、ミーリアが口付けてきたのがわかった。
心臓が押しつぶされされそうだった。
いけないと思いながらも、その口付けを受け入れた。
「ミーリア?」
その存在を確かめるように、オルディオはその名を呼んだ。
希望そのものであるかのようなその名前を。
「オルディオ」
ミーリアの声は小さかったけれど、嬉しそうだと表現してもいいほどには、明るかった。
「僕だって、君を手放したくはない」
「大丈夫。あなたと一緒にいる」
「いいのか?」
その問いは、誰に向けられたものだっただろう。
ミーリアだっただだろうか。自分だっただろうか。
けれど、全力で抱きついてきたその身体に、抗うことは、オルディオにはもうできなかった。
「いいのよ」
ミーリアを、膝の上に乗せ抱きしめる。
ただそれだけで、全ての感情が溶けていく。
「ついてきて欲しい。後悔したとしても」
「後悔したとしてもね。あなたを手に入れたことを、あたしは忘れることなんてないわ」
見上げてきたミーリアの瞳は泣きそうだったけれど、ミーリアから発せられるその声は、強く優しかった。
その日、オルディオはミーリアを抱きしめて眠った。
ミーリアは眠ったふりをしていたけれど、オルディオの腕の中で、どうやら眠ったふりをしていただけのようだった。
明け方の部屋は少しだけ肌寒く、オルディオはミーリアの肌に、薄い布をかけてやった。
「いつ来れる?」
「今日にでも」
「出来るだけすぐに迎えに行く」
「ええ」
ミーリアが突然、オルディオの首筋をガブリと噛んだ。
「う……っ、おい、何やってんだよ」
モゾモゾと動くミーリアの熱を肌で感じながら、ミーリアを抱きしめる。
「あたしのものだって印」
ミーリアが少しだけ笑う。
「いつだって僕は君のものだ」
オルディオはそう言って、ミーリアの首筋に強くキスを残した。
勇者編、30話で終わりになる、と思います。




