⌘勇者編 26⌘ あなたといる決意
それは、いつもの散歩の時間だった。
砂煙ばかりの街オルテガ。
荒野の街オルテガに、夜が来ようとしていた。
勇者オルディオと歌姫ミーリアは、砂煙ばかりの砂地を、今日も眺めていた。
ミーリアは、大切な話をするならこの場所でと決めていた。
何度もオルディオと来た場所。
この街を発つなら、ここからがいいと決めていた。
「オルディオ」
オルディオは、いつだってミーリアのそばにいた。
笑ったり照れたり、そんな顔を見せてくれるオルディオを、ミーリアは愛しいと感じていた。
「どうした?」
「あのね」
決意はもうとっくにしたはずなのに、なんだか泣きそうだ。
泣きそうな目を、オルディオに見せるつもりなんてなかったはずなのに。
見上げたオルディオは、優しくミーリアを見下ろしていた。
「あたし」
言葉を止める。
沈黙の中で、縋るようにオルディオの方へ出した手を、オルディオが受け止めてくれた。
握られる手の温もりは、このパサついた街には、あまりないものだ。
この温もりを離したくないから。
この温もりを離したくはないから。
「あなたについて行こうと思うの」
「ミーリア……」
オルディオは、その言葉が意外だったのだろうか、それとも、予想したことだったのだろうか。
どちらとも取れる少しだけ衝撃を受けたような顔で、オルディオはミーリアを見下ろした。
「……連れていけない」
感情のないその声。
始めから、こう答えようと決めていた声。
ミーリアは首を横に振る。
「あたしが聞きたいのは、そんな言葉じゃない」
だってあなたは。
あなたは、この手を離そうとしないじゃない。
オルディオは、まだミーリアの手を掴まえていた。
そして、離さないようにするために、さっきよりも少しだけ力を入れていた。
あたしのことを手放すつもりなら、こんな手要らないはずなのに。
「あなたは、どう思ってるの」
そう問うと、オルディオは沈黙した。
じっと、ミーリアを見ていた。
オルディオの手は、震えていた。
「あなたは……」
もう一度問おうとすると、オルディオがその言葉を遮った。
「君を傷つけたくないんだ」
オルディオが泣きそうな瞳を向ける。
「死ぬかもしれない旅なんだ」
「……知ってるわ」
「目の前で君が死ぬところを見るのも、君に僕が死ぬところを見せるのも、きっと耐えられない」
「けどあたしは……」
「けど僕は。君が目の前にいない世界は耐えられない」
「あたしだって。あなたがどこのかのお姫様と結婚するところ、見たくはないわ」
そして二人は、手を繋いだまま少しだけ笑った。
後悔なんてしないって思っていた。
あなたと一緒に行くと決めたなら、どんな未来になっても、後悔なんてしないって。
けど、あたしのあの時の選択は、間違っていたの。
だってあたしは、あなたがどこかのお姫様と結婚するのを耐えられる。
だからオルディオ。
どうかこの世界で、ずっとずっと笑っていて。
この世界からいなくならないで、笑っていて。
さて、勇者編ももうすぐ終わりかな。




