✠騎士編 25✠ 町を訪れた聖女(6)
「いないの!?」
という言葉が聖女の口から漏れたのは、一回や二回ではなかった。
聖女がオルディオに会おうとする度に、なぜか必ずいないのだ。
「も、もしかして……」
菫色の綺麗にまとまった髪がフルフルと揺れる。
「私、避けられてる!?」
「あ〜……」
カイが複雑な顔をする。
「ちゃんといろって言っておいたんだけどな」
けれどカイは気づいていた。
聖女が師匠に挨拶したいと言っていたという話をしたとき、
『わかった』
と言葉は素直だったものの、浮かない顔をしていたことに。
「しばらくいさせてもらっていいかしら」
「いいけど」
カイは、目の前に広がる森を眺めた。
「師匠、3日くらい帰ってこない日もあるから」
「…………」
そして、オルディオ捕獲作戦は始まった。
嫌がる人間を勇者にしたてても魔王に勝てないのでは、なんて思う人もある。
けれど、結局は勇者の能力は生まれつき。勇者の素質がないものでは代用できないほどなのだ。
勇者の力を持たないやる気だけのものを選んでも、勝ち目がないのは変わりない。
それならば、勇者の力を持つものを見つけだしてしまった方が、後でどうとでもなるというものだった。
とはいえ、勇者候補に力で挑むのは無理がある。
「甘いパイで釣るのはどうだ?」
「薬でも仕込むつもり?」
「まさか。俺、弟子だぞ?破門されちゃうよ。普通に出す」
「え?まさか本気じゃないわよね?」
「いや、けっこう本気だが?」
「え?」
そんなわけで、オルディオが帰宅するであろう3日後、聖女は手に大きなアップルパイを持ち、オルディオの家へ向かうことになったのだった。
「さ、ここがキッチンだ」
カイに案内され、聖女はおずおずとオルディオの家に入る。
「お邪魔します」
オルディオとカイしか足を踏み入れない場所であるにもかかわらず、思いの外広い二階建ての家。
キッチンも、思いの外可愛らしいカントリー風だ。
どさり、とテーブルにワンホールまるごとのアップルパイを置く。
ガラスの器に入ったそのアップルパイは一体どれだけのリンゴがつかわれているのか見当もつかない。巨大で大きなパイの中に、黄金色でいい香りのリンゴがのぞいている。
朝、ホテルのコックに作ってもらったそれは。いつから仕込んでいたのやら、美味しそうで完璧だった。
「お茶、入れるから待ってて」
言いながらカイは、赤いブリキのヤカンに水を汲んでコンロで熱し始めた。
大人しく待つこと数分。
アップルパイに合いそうな、深い香りの紅茶が、マグカップに注がれる。
アップルパイにナイフを入れ、それぞれの更に一切れずつ載せた。
「で、どうするの?」
「普通に食べるんだよ」
食べる???
顔に疑問が浮かぶ。
「まあまあ。悪いようにはしないさ」
さて、オルディオを捕まえることが出来るのでしょうか。




