⌘勇者編 25⌘ 死ぬなよ
その日も朝からミーリアは引き締めた顔を鏡に映した。
今日、店に出るのは昼過ぎ。
まだ時間はあるけれど、これがこの時間の日課だ。
いつも通り食堂へ行く。
少しだけ食事の準備を手伝って、自分の席についた。
みんなのざわめきが聞こえる。
白いお皿、綺麗とは言い難いスプーン。木製のコップ。
清潔なテーブルクロス。
まだ寝巻きのお姉さん達。かと思えば、ドレスをぴっちり着こなしている人もいる。
いつだってそこは、落ち着く場所だ。
ミーリアの生活の場所。
「これどう?」
と、隣にいた女の子が話しかけてくる。
「今日、アタシが手伝ったの。アイディアはアタシなんだけど、この組み合わせ、ちょっとよくない?」
見ると、はちみつを使ったビスケットが目に入る。
「時々ならね。甘いものばかり出して、姉さん達に反感買わないでよ」
笑いながらそう返す。
「うん。でも美味しい」
ミーリアは、まつ毛を瞬かせた。
食事を終え、人が減っていく食堂を眺める。
さて、今日は何を手伝おうかと考える。
シーツを洗うのを手伝おうか。それとも、食器を洗う方かな。
そんな風に、明るい太陽の光を受け入れるいつもの場所を眺める。
一人になる。
ぼんやりと窓の外を見ていると、カチャリ、と扉を開ける音がした。
「ミーリア」
安心する声。ドニーだ。
ミーリアは、ドニーと向き合った。
何をどう言えばいいのか考えている間に、ドニーの方が口を開く。
「どうしたんだ?こんなところで」
「……なんでもないの」
笑いかけて、けれどミーリアは、黙り込んだ。
「もしも、もしもよ、ドニー」
「なんだ?」
「……あたしがこの家から居なくなったら、寂しい?」
「ああん」
ドニーの声が、潰れる。
「寂しいことなんてあるもんか。ここには娘達が他に14人もいるんだぞ?みんなオレが育ててる。お前一人居なくなったって、大したことはないさ」
ミーリアがふっと笑う。
「ドニー!なんて冷たい人なの!」
「何処か行くのか」
それは、なんてことないセリフだった。
これまでの人生で、よく街をフラフラしているミーリアが、何度もその口から聞いた言葉だった。
「あたしやっぱり、もう、オルディオがいない生活に戻るのは……嫌なの」
「…………」
ドニーが押し黙る。腕組みをして、じっとミーリアを見る。
「勇者の軍に、ついて行こうと思うの。この間のことで、あたしにも出来ることがあるってわかった」
「死ぬかもしれないぞ?」
ドニーの声は低かった。けれどそれは、説得ではなかった。
もう、決意の瞳を見せたミーリアを、止めようとするものはいなかった。
「いいの。死んでも」
「死ぬなよ」
「オルディオが一緒なのよ?あたし……」
ミーリアの瞳に涙がたまっていく。
「一緒に行きたいの」
この二人はうまくいくんでしょうかね。




