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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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⌘勇者編 24⌘ 勇者の剣(5)

 テントの隅に、聖剣が置いてある。

 ミーリアはそれをひとしきり眺めると、

「もしかして」

 と口に出した。


 長椅子に座って書類整理をしていたオルディオが、ミーリアの方を向いた。


「聖剣、って、普通の剣なの?」


 ミーリアのその言葉を聞くと、オルディオは、口をへの字に曲げて、長椅子の背もたれに肘をついた。


「普通、なんて言ってくれるなよ。それは、ゼオっていう職人が打った剣だよ」


 ミーリアは、雷に打たれたような顔をした。


「じゃあやっぱり、普通の……」


「僕が手に入れるのに、どれだけがんばったと思ってるんだ?」


「…………どれだけ頑張ったの?」


「予約取るの大変だったんだぞ?お金貯めて、何ヶ月も待って。ゼオ目当てに来る剣士の多いこと多いこと……」


「ふふっ」

 いい加減、ミーリアは吹き出してしまった。

「やっぱり、誰かが打った剣なんじゃないの。あたしてっきり、古い教会に保管してあった勇者だけが持てる剣とか、そんなのなんだって思ってたわ」


「ああ、その方が楽だから、そう思われそうな行動をしていたのは本当」

 言いながら、オルディオは剣を鞘から抜き放つ。

「けど、これは人間が打った剣だ」


 それは、薄く綺麗な剣だった。


「軽くて持ちやすいんだよ」


「確かに、綺麗な剣ね」


 その、輝く剣身に見とれる。


「じゃあ、勇者の力っていうのは?」


「抜剣能力」


「あら、でも、世界に一人じゃないでしょ?時々いるわよね」

「ああ。それが……、一際能力が高いのが、勇者と呼ばれる存在なんだ」

「それを使えるのが、生まれつきってわけ?」

「そういうこと。一定以上力のある奴は、そんなにいないんだと」


「じゃあ、剣は関係ないのね」


「ああ。まあ、ゼオの剣は世界で一番使いやすいけどな」


 今度は、オルディオの方が笑う。


「勇者になんて、なりたくなかった?」

 ミーリアは、テーブルの上の地図やペンを眺めた。

「どうかな。確かに最初は、面倒なものに捕まったって、思ったかもしれない」


「今は?」


「今は、勇者をしたからこそ、出会えた人がいるからな。出会えてよかった、と思う人がいる」


「それはもちろん、あたしのこともよね?」


「もちろん。君のことだ」


 ミーリアは、オルディオの顔を真っ直ぐに見た。

 オルディオの瞳が、思いの外こちらをじっと見ていたので、それにつられて、じっとオルディオの顔を眺めてしまう。


「あ……」


 もしかするとという期待が、身体の中を駆け巡り、その気持ちを外に出さないように努めた。

 けれどそのオルディオのじっとした瞳には抗えそうにないと知る。


 ミーリアはその視線を受け止めると、また恥ずかしそうに瞳をそらした。

名剣をたくさん作ってそうですね。ゼオさん。

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