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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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✠騎士編 23✠ 町を訪れた聖女(4)

「なかなかいないわね」


 聖女が、大きな切り株のうえで、ため息を吐く。

 そして、周りを見渡した。


「確かにどこかにいると思うのだけれど」


「見えるのか?」


「そうよ。空気の濃さというか、なんというか、ね。けど、有力な剣士はほとんど見たわ」


 聖女がこの町に来てすでに2ヶ月が経っていた。

 もちろん聖女たち一行であっても、勇者探しにそれほど時間はかけたくはない。なので、もちろん勇者候補達の中から、勇者として動けそうな屈強な男や名のある剣士ばかりから勇者かどうか見るにいたった。

 けれど、実際のところ、まだ成果はあがっていない。


「そういえば、」

 とカイはふと思い出したように声を上げた。


「うちの師匠もまだだったよな」


「……ええ」

 聖女は思う。

 確かに師匠と呼ばれるほどの人物なら、剣は上手いのだろう。

 けれど、勇者になれるかどうかは別だ。

 すでに現役を退いた結果、剣を教える人間だっているのだから。


 とはいえ、会わずに終われる相手でもないだろう。

 他にも弟子がいるなら、その中の誰かが勇者である可能性だってある。


「じゃあ、会うわ」


 ピョコンと跳ねるように聖女が立ち上がった。


「今から?」


「ええ」




 そして丘の上から、オルディオの家までの道のりを、二人は歩きだした。


 草原を歩き、森の方へ歩いていく。

 石だらけの地面を歩き、イバラの多い場所を抜け。


「何よこの道〜!」


 と、聖女が声を上げるまで、そう時間はかからなかった。


「ほら」


 カイが手を差し伸べる。

 その手をじっと見た聖女は、ぷいと横を向いた。


「もう少し、一人で歩いてみるわ」


 けれど、そんな聖女の前に立ち塞がったのは、川だった。


 それほど大きくない川だ。

 広いけれど、浅い。

 きっと中に入っても、膝までも浸からないだろう。


「いいのか?」


 聖女はその手を凝視した。

 明るい木漏れ日が、足元で揺れた。

 聖女はスカートを持った両手を、すっと離した。柔らかな布地が揺れた。


 きゅっと、聖女はカイの手を握る。


「これでいいかしら?見習い騎士さん」


 カイは、そのつながっている手と、自分より少し背の高い聖女の顔をとを見比べ、

「いいよ」

 と満足そうに言った。


「ほら」

 と手を引く。

「ええ」


 ザバ、と川に入っていくカイに対し、聖女は、

「え、」

 と声を上げた。


「水の中に入るの!?」


「そうだよ」


「私も!?」


「そうだよ」


 少年は、とても楽しそうに笑うと、そのまま思い切り聖女の手を引いた。

「キャアアア」

 そんな声に更に少年が笑う。


「もう!なんてことするのよ!抱え上げるとか何かあるでしょう!?」


「これだから、都会の聖女様は。俺より背の高いお姉さんを、抱え上げられるわけないじゃないか!」

仲良くなってきましたね!

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