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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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⌘勇者編 22⌘ 勇者の剣(3)

 ミーリアが走る。

 剣は、金属とは思えないほど軽かった。

 けれど、金属でできた剣であることに変わりはない。


 ……重い。


 けれど、歩調を緩めるわけにはいかなかった。

 砂煙が舞う。

 遠く、いくつかの黒い影が、地面を啄むように飛んでいるのが見えた。


 走る騎士たちの姿が見える。

 家の中で閉じこもる街の人の姿が見える。


 キャンプも襲われているだろうか。

 足を速める。


 薄茶色の砂の地面に、大きな影が映る。

 止まりそうになる息と足を、精神力だけでなんとか奮い立たせる。


「ギィィィィィ」


 頭の上で、金属か何かが擦れるような音がした。


 前に見た魔物よりも大きく黒い何かが、ミーリアの後ろに、ドン……!と足を下ろす。


 怖い……!


 ミーリアの姿に、影が覆い被さった。


 振り向いちゃダメだ。

 ダメだ。


 泣きそうになりながらも、剣をしっかりと握った。


 もうすぐキャンプ地だというところで、見覚えのあるマントが翻るのが見えた。


 赤い夕陽の中で、スッと立った男性が、ゆっくりとこちらを振り向く。


「オルディオ……!」


 オルディオは、ミーリアの手に握られた聖剣を認めると、強い瞳で魔物を見据えた。


「こっちへ」


 低い声。

 その声に縋って、そちらへ走ろうとした。

 その時だった。


 ぐん、と、ミーリアの襟首が掴まれる。


「キャアア!!」


 剣を渡すまでは手放すまいと、剣をギュッと握る。


 オルディオが、横っ飛びに跳んだ。

 足で、そこにあった小さな木製の屋台を蹴り付ける。

 ガン!と大きな音を立てて、木の板が倒れ掛かる。

 果物と共に落ちてきたのは、一本の果物ナイフだった。


 ナイフを手に取ると、オルディオは息を吸った。


「過去より受け継がれし宿縁、──抜剣」


 抜剣詠唱。


 え……?


 抜剣詠唱で、オルディオの手に握られた果物ナイフが青白く光る。


「どういうこと……」


 オルディオが跳ね上がる。

 果物ナイフが、魔物の頭らしき部分の上に刺さった。


 ミーリアの手に持っているのは聖剣だ。

 勇者っていうのは、聖剣を持って戦う人のことなんじゃないの?

 伝説の剣だの、勇者しか扱えない剣だのという噂を聞いたことがある。

 じゃあ……この聖剣っていうのは……?


「ギャアアア」


 魔物の苦痛の声が空気を揺らす。

 オルディオが魔物の懐に飛び込み、ミーリアを捕まえた。


「よかった」


 ミーリアの耳に小さく、そんな言葉が届いた。


 ミーリアの持つ聖剣を、オルディオが蹴り上げる。

 ミーリアをとん、と地面に立たせ、オルディオは剣の柄に手を寄せた。


「過去より受け継がれし宿縁、──抜剣」


 抜剣詠唱と共に、聖剣が抜き放たれる。

珍しく戦闘ですね!

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