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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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✠騎士編 21✠ 町を訪れた聖女(2)

 町中に御触れを出したのは、それからすぐのことだった。

『聖女様が、勇者様を探しておられます』


 翌日、聖女のために、大きな人だかりができた。

 聖女は首を傾げる。


「こんなにいるのね」


 力が見えないわけではなかった。


 けれど聖女は、一人ずつ向かい合わなくては、勇者なのかどうか見えないようだった。


「これ、順番にいかないといけないのね」


 とはいえ、勇者の確認は力を使うらしく、一日一人しか見ることができない。


 そんな理由で、聖女は町に住み込むことになった。




 小高い丘の上は、見晴らしがいい。

 カイは、剣を振りによくその場所へ行った。

 足首をくすぐる黄緑色の草と、澄んだ空気の匂いが好きだった。


 カイは、無心で剣を振る。

 ブン、と空気を切る音が、耳に心地よかった。


 サクサクと丘を上がってくる気配を感じ、それでも、無心で剣を振るう。

 さらに幾度か剣を振るった時、突然その誰かは声をあげた。


「綺麗ね」


 カイは、剣を下ろす。


 少女は、カイがいつも休む時に腰を下ろす切り株の上に座っていた。


「綺麗?」


「ええ、綺麗」


 カイは、剣を見下ろす。

 鈍い銀色の剣。綺麗とは程遠いと思う。


「……あなたがよ?」


「え?俺が?」


「ええ。立ってる姿、とても綺麗だわ」


 カイは、鼻で息を吐く。


「俺なんか、まだまだだろ」


「そうなの?」


「そうだよ」


「けど、あなたは名のある剣士になりそうね」


「俺は、勇者じゃないと思うよ」


「そうかしら。試してみなくてはわからないわ」


 変な期待を持たせないでくれ、なんて思う。

 町には、もっともっとすごい剣士がたくさんいて、もっともっと勇者でありそうな人間が、山ほどいるのだから。


「けど、もし」


 カイは剣先を地面に突き立て、つまらなそうにその地面と剣の接点を眺めた。


「もし、この町から勇者が出るっていうならさ、それについていってもいいな」


「勇者軍に?」


「ああ。勇者軍に採用されるには、強い剣士じゃないといけないだろ?」


「それはそうよ。魔王を倒しに行くのよ」


「俺、それに入るよ」


「じゃあ、あなたは騎士になるのね」


 そうか、そういう名前なのか、なんて顔を上げると、紫の艶々の髪を結えた聖女様が、口をへの字にしてカイのことをじっと見ていた。

 自分のことを話しすぎたか、なんて思う。


 けれど、その日から、俺がそこにいると、聖女様は高確率でそこへ来た。


 特にどちらも邪魔だなんて思わなかったし、特にどちらも声をあげない日もあった。

 そして時々、二人は二言三言交わした。

 それはいつだって、聖女の方からの言葉だった。


「見習い騎士さん」


 なんて、ちょっと馬鹿にしたような、それでいてカイの言うことを信じているような呼び名で、聖女はカイをそう呼んだ。

 カイもただ、


「聖女様」


 と呆れるように呼ぶことがあった。


 ただ、そんな仲だった。


 そんな仲で終わるのだと、そう思っていた。

なかなかかわいい二人だと思います!

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