✠騎士編 20✠ 町を訪れた聖女(1)
かつて、世界が混乱に落とされたことがあった。
魔王がこの世界を、支配しようとしたのだ。
街は燃え、家は焼かれた。
魔物たちが歩き回った。
人間たちは寝返った。
「たあっ!」
少年は、剣に体重を預けるように前に出ると、黒い魔物に剣を突き立てた。
黒い魔物が消えていく。
「こ、これでいいんだ」
慌てた心を足に乗せ足踏みすると、踵を返し、小さくまとめた髪を揺らしながら師匠の元へと走っていった。
「師匠!!」
「うるっさい」
少年の名はカイ。師匠の名はオルディオ。
二人は、森の入口にいた。
淡い緑の多い、町外れの小さな小屋が、二人の修行の場だ。
この小さな田舎町で生まれ育った二人は、剣の修行をしていた。
カイは、簡素な剣の手入れをしていたオルディオに飛びかからんばかりに話しかける。
「魔物倒せた!!」
「お、やっとかぁ」
オルディオは、呑気に顔を上げると、不器用な笑顔を見せた。
「もう少しいい剣だったらいいんだけどな」
「ゼオの剣、もうすぐ出来るんだろ」
「ああ。あの人の剣、なんかすごい……薄くて。切れ味いいって評判なんだよ。どこの工房出身なのか、今度聞いてみるんだ」
少し興奮気味に言うオルディオに、カイは尊敬の視線を向ける。
世界では、魔物が増えてきたという。
王都にある女神イニシエの教会から、聖女が出立し、勇者を探す旅に出たという。
「いくら聖女様だって、勇者を探すのに何年かかかるかもしれないだろ?そこでこの地域を守るのは、俺らなんじゃないかって思うんだ」
そこで、オルディオは今度は声を出して笑った。
「生意気言う前に、抜剣詠唱、使えるようにしてから言えよ」
「使えるよ!集中して、シャキーン、だろ」
「そうだよ。集中出来てればな」
そんな、二人で訓練で明け暮れる日々を過ごす中、カイに、声をかけてきた人間がいた。
「そこの男の子!」
カイがグイン、と顔を捻る。
そこには、見たこともない白いドレスを着た、少女が立っていた。
歳の頃は十代真ん中。カイより2、3個年上だろうか。
ゆるりと結わえた菫色の髪は、ここいらで見たことがないほどさらりとしていた。
「何?」
どう見ても都会のお嬢さんといった風体に、つっけんどんになる。
「……この辺りに、名のある剣士さんはいるかしら」
「いるよ」
「あら……どこ?」
期待の瞳がぱちぱちと瞬いた。
「い……っっぱいいるんだ。何ヶ月か前に、すごく腕のいい鍛治士が住み着いてさ、名のある剣士も、名の無い剣士もこの辺りで順番待ちしてるよ」
「……あら」
それが、カイと聖女様の出会いだった。
そして、その交流は、名のある剣士が数多くいるその町だった故に、何ヶ月もの時間を費やせることになったのだった。
過去話!!




