⌘勇者編 19⌘ お姫様と結婚するの?
オルディオがふっと息を吐くと、カチャン、という金属音と共に、剣は腰に下げられた鞘に収まった。
少し引いてみていたミーリアが、ほっと力を抜いた。
目の前で、黒い塊が散っていく。
魔物が勇者の聖剣で討たれたのだ。
「オルディオ、ありがとう……」
ふっと、オルディオの濃い瞳が、ミーリアに焦点を合わせる。
「仕事だよ」
「勇者のお仕事、ね」
「だな。他にも、王様に呼ばれたりパーティーに出たり」
「そんなお仕事の依頼があったの?」
「そういうことだな」
やっぱり、勇者というのは王様というものと縁があるのだ。
ミーリアは改めてそう思う。
その、小さな頃に読んだような、そんな物語めいた何かの片鱗を突きつけられる。
実際、王都に大きな教会を持つ女神の聖女が、この世界の中で一人の勇者を見つけることができる、なんて話まであるくらいだ。
現在、この世界に聖女はいない。
勇者を見つける際に、魔王の手に堕ち、亡くなったということだった。
じゃあ、お姫様だろうか。
そこまで考えて、いささかドキッとする。
この国にも、お姫様がいる。
年頃の、柔らかな空気を纏った上品な人だ。
勇者とお姫様なんて、それこそ、物語みたいだ。
なのでミーリアは、つい、言ってしまったのだった。
「勇者は、……かわいいお姫様と結婚とか、するの?」
可能性がないなんて思えなかった。
王様に呼ばれるってことは、そういうことだって……ないんじゃないのか。
けれどオルディオは、
「まさか」
と言った。
オルディオは、ミーリアの真剣な瞳を見て、背筋を伸ばす。
「もちろん勇者の力は絶大だ。それを繋ぎ止めておくために、貴族と結婚させる、なんていう方法ももちろんあるよ」
ミーリアの顔が、少しピクリとする。
やっぱり……、あるんだ。
「まあ、けど、お姫様はないな。流石に帝王学の一つも学んだことがない人間、突然王家に入れるはずないだろ」
「それはまあ、そうね」
「魔王を倒せるかもわからない僕みたいなのに、貴族のお嬢さんと結婚してくれなんて話も、もちろんないよ。みんな、騎士に見張らせておけば、この国から出て行かないと思ってるのかな」
「そんな……」
ミーリアの心がスッと軽くなった。
現金なものだ。
何もないとわかって、ホッとしてしまうなんて。
「まあ、魔王を倒した暁には、『この娘と結婚してくれ』なんて言われるのかもな」
ミーリアが「ふふっ」と笑う。
「そうしたら、どこかにいる恋人が悲しむじゃないの」
「悲しむか?」
オルディオがそう尋ねる。
ミーリアの瞳を覗き込んで言うそのセリフは、まるでその“恋人”とやらが、ミーリア自身であるかのようだった。
「きっと、悲しむわ」
「じゃあ僕は、魔王を倒した暁には、まず好きな娘と結婚する権利をくれって、提言しないといけないな」
なかなかいい雰囲気になってきたんじゃないでしょうか。




