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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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✠騎士編 18✠ 記憶の中の人(1)

「じゃあこれだけだな」


 契約書に書かれた魔術服代は、膨大だった。

 ルーナはキョトンとし、カイは目を丸くする。

 今更要らないとは言えなかった。

 むしろ、ルーナを見れば、もうこれしかないのは明白だった。

 サイズにしろ、機能にしろ。


「わ、わかった、じいさん。ただ、こんなに手持ちがないから……」


「ああ。仕事を回してやるよ」


「え……」


 小柄なじいさんの真剣な瞳を見る。

 このじいさん、本気だ。


 仕事内容は、『要人の護衛』。


 そんなわけで、カイとルーナは準備もそこそこに、隣街まで歩いて行くことになった。




「夜までにつけますか?」

「今日はまだ、夜には街には入らないよ。暗い中で知らない街に入るのは、危険だからな」

「そうなんですね」

「ああ、強盗とか、いるんだよなぁ」


 森の中を歩く。


 しばらく行くと、カイは、後ろを振り向く。

 ルーナが遅れていないか見る。

 思ったよりもちゃんと歩いている。

 鎖をつけて生活していたせいで、体力はあるのだろうか、なんて考えて頭を振る。


 白い衣装がすぐに汚れるのでは、なんて思いながら見るけれど、そういう面でも魔術が使われているのか、土が触れても透明感のある白を保ったままの服を見る。


 菫色の髪が目に入る。


「……疲れてないか」


 パッと、顔を上げたルーナの顔を見て、少しだけがっかりする。

 あの人ではないことなんて、百も承知だったはずだ。


 ……俺、何考えてんだ。




「キャンプにしようか」


 カイが、少し開けた土地で、立ち止まった。

 小さく開けた土地の真ん中は、草はなく、その代わり何度も焚き火をした跡がある。この道は商店街ドットと隣の街を繋ぐ細い街道なだけあって、ここを通る冒険者達のキャンプスポットになっているようだ。

 実際、隣の街まであと半時間といったところ。

 様子を見ながらキャンプをするのに、ちょうどいいのだろう。


 あたりで枝を拾い、火を燃やす。

 カンカン、と、冒険者には必需品の火打石の音が小さく鳴る。


 もうすぐ暗くなるその場所が、パッと明るくなる。

 暖かくなる。


 カイがふと目を挙げると、菫色の髪を持った少女が視界に映る。

 カイは、心の中でため息を吐いた。


 別人だなんて知っている。


 けれど、同じ女神の加護。同じ色の髪。


 微かに重なる同じものが、希望を抱かせる。

 ほんの一瞬……、一瞬だけ、あの人がそこにいる感覚に陥いる。


 あの人なんじゃないかと確かめたくて、目の前の少女をじっと見たくなる。

 あの人ではないことを確かめるのが怖くて、視線をそちらに向けられなくなる。


「ふぅ」


 なんてささやかな声が目の前からして、それだけで自分が動揺してしまうのがわかる。


 きっと、考えてしまう。


 どこが似ているだろうか、と。

 似ている部分を探してしまう。


 違うことに絶望してしまう。


 それがわかっていて、俺は──。


 ──この少女を、手放すことが出来ない自分を、理解してしまっていた。

炎を挟んで向かい合う二人、ですね。

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