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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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✠騎士編 17✠ 新しい服(3)

「ジャジャーン」

 なんていう掛け声で部屋に入ってきたのは、このディーの店のばあさんだった。


「おい」

 緊張しつつも椅子に座ったまま顔を上げたカイが、拍子抜けする。

「ルーナは?」


 ムスッとした顔に、小柄なばあさんがニッコリと笑う。


「慌てなさんな。ほうら、ここに」


 指し示された、開かれた扉の向こうに、菫色の髪が揺れているのが見えた。

 入るのを躊躇しているらしく、菫色の髪が、扉の向こう側でちょこちょこと動きまわっている。


「ルーナ」


 静かに呼ぶと、ルーナが顔を出す。


 見違えるようだった。


 髪は、ツインテールの髪を、三つ編みにしたもの。その少しの三つ編みの先に、髪留めをつけていた。

 髪留めは金の飾りが書いてあった。

 それは文字のようだった。

 どこのどんな文字だと言っていいのやら、カイには読むことすらも出来ない。

 実際、それは魔力コントロールなどの魔術が込められた魔道具だったのだ。


 魔道具なのは服も同じだった。

 金の縁飾りがついた白いワンピースの上に、同じデザインのローブを羽織る形だ。

 その服も全て、魔力コントロールなどの魔術が込められた魔道具だ。


 歩きやすそうなブーツ。

 そして手には、カイが買ってやった杖を持っている。


 ルーナが、おずおずとカイを見上げた。




 正直、カイは、ルーナを見た瞬間ほっとした。

 ルーナの髪は菫色だった。

 かつてカイのそばにいた、あの人と同じ髪の色。

 なので、しっかりした魔術服なんて着せてしまえば、あの人の面影がもっと見えてしまうのではないかと思ったのだ。


 明るい顔で、ニッコリと笑顔を作り、

『そこの見習い騎士さん』

 なんて俺を呼んだ、あの人と同じように見えてしまうんじゃないかと思ったのだ。


 けれど、そんな心配は無用だった。


 あの人は、いつだって教会の服に身を包み、神聖な笑みをたたえていた。

 けれど目の前にいるルーナはどうだろう。

 どちらかといえば冒険者の中にいる魔術師のような格好をして、おずおずとカイのことを見上げる小さな少女は、あの人とは似ても似つかない人間だった。


 似ていないことに安堵する。

 そして、それと同時に、似ていないことを残念に思う自分がいることに気がついた。


 似ていればいいと思った。


 生まれ変わりなんじゃないかと思えたから。


 けれどもまあ、あの人が魔王の手に堕ちて6年。

 どう見ても10歳にはなるルーナが生まれ、育つには計算が合うわけでもなく、生まれ変わりかもなんて、自分を慰めるためのつまらない思い込みにしかならないことなど、自分でわかっていたはずだた。


 そんなあり得ないことにまで、縋ろうとするだなんて。




 自分の悲しみを心の中に閉じ込め、泣きそうな自分を見なかったことにしながら、カイはニッコリとルーナに笑顔を向けた。


「似合うよ」


 そんな風に、笑ってみせたのだ。

やっと、ルーナのお着替え完了です!

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