✠騎士編 16✠ 新しい服(2)
「ひゃあああああ!」
ルーナの声が、夜の中にこだまする。
「大人しくしろって」
カイが触る度にルーナが声を上げるものだから、無理やり変なことでもしていると通りすがりの誰かに思われでもしたら大変だ、なんてことが頭をよぎる。
けれど、途中でやめるわけにもいかず、濡れて小さくなった子猫のようなルーナに、カイはまた手を伸ばした。
ルーナの上で石鹸の泡がフワフワと飛び立つ。
「じゃあ、もう一度触るからな?」
「は、はい」
けれど、覚悟をしたところで、ルーナも他人に触られる経験などなく、突然慣れることもなくで、また、
「ひゃあああああああ!」
なんて声をあげてしまうのである。
「いつまでも、キレイにならなかったら困るだろ」
「はい……。あの、気にせず洗ってください」
そう言われなくともやるしかない。
カイは、ルーナに手を伸ばすと、勢いよくガシッと頭を掴んだ。
「ひゃああああああああっ」
そんな声を聞かなかった事にして、カイはグシグシとルーナの髪を洗い始めた。
髪は、酷くこんがらがっていた。
髪を梳かした事があるとは思えないくらいに。
そんな毛の塊を、カイは何かの汚れを落とすようにグイグイと洗っていく。
洗う中で、毛先から少しずつ、毛をほぐしていった。
泥だらけの服は、水で肌に張り付いている。
カイは、時間をかけて髪をほぐしていく。
それは、こんな場所まで連れてきてしまったルーナへの、償いのようでもあった。
丁寧にほぐし、丁寧に洗いを繰り返していく。
次第に、ルーナの髪は何色だかわからないくすんだグレーから、緩やかな菫色へと変化していった。
カイはその色が見える度、手が凍りつくように動かなくなっていった。
かつてそばにいた、あの人の姿ばかりが思い出された。
ザバァ……!
仕上げに湯をかけてやる。
温泉のけむりが、もうもうと立ち込めた、
「ひゃあああああああ」
あいかわらずの悲鳴。
足元の石畳に、温かなお湯が流れていく。
綺麗になったルーナの頭は、見違えるようだった。
痛む心を抑えつけ、カイはルーナの濡れた髪を優しく触る。
長い、菫色の髪。
「ほら、身体は洗えるだろ?」
もう一度、温泉から湯をかけてやりながら言う。
「はい」
それでもそこにいるわけにはいかないので、自信なさげなルーナを置いて、カイはその場から逃げるように脱出した。
店の裏手から店の中へと戻る。
店の裏には綺麗な温泉があった。
なんでこんな辺鄙なところに店を作ったのかと問われれば、そんな理由があるとしか思えなかった。
「じいさん、頭はどうにかなったけど」
「ああ、いい、いい。あとは妻に任せてくれれば」
「そうか?」
言いながら、見えもしないルーナがいるはずの方向の壁を見やる。
やはり小さな婆さんが、扉の向こうを大きなタオルを持って出ていくのが、開きっぱなしの扉の向こうに見えた。
やっと、ルーナがまともな姿になりつつあります。




