⌘勇者編 16⌘ そういう仕事
それは、まだ空が青い時間の事だった。
オルディオがドニーの店の前を通りかかると、ミーリアが見えた。
こんな早い時間から飲んだくれていた冒険者の男を、見送るところのようだった。
客商売なんてするもんじゃないな。
そんな風に、見回りに戻る視線の中で、オルディオは、冒険者の男が、ミーリアに手を伸ばしているのが見えた。
あいつ……!
歌姫は、ああいう輩に狙われやすいのだろう。いちいち助けていては仕方がないと思うが、それでも。
それでも。
足を一歩出したところで、
「外ではイヤよ」
なんていう声が聞こえた。
サッとオルディオの血の気が引く。
立ち止まり、ミーリアとその冒険者の方をみる。
今聞こえてきた声の意味を考える。
オルディオがその言葉の意味の言語化を拒んでいる間に、目の前ではどんどん状況が流れていっていた。
「じゃあ、今度また夜に来るわ。部屋、空けとけよ」
「やあね。あたしがちゃんとした客しか取らないの、わかってるくせに。じゃなかったら、ちゃんとしたモノを持ってきてよね」
ミーリアの艶かしい声とともに、男の手がミーリアの腰から背中、そして肩へと流れていく。
「じゃあ、お前のために宝石でも取ってくるよ。待ってな、歌姫」
そう言って、男が去って行く。
後には、艶やかな手をその男に振るミーリアが残された。
オルディオはそこに立ち尽くす。
ミーリアが、そういう仕事をしているのは、知っていたつもりだった。けれど、こうもハッキリと言われてしまっては、受け止め切れない泥ばかりが残る。
ミーリアが、こちらに気付く。
「どうしたの、そんなところで」
どこか遠いところで声が響いた。
「いくらなんだ?」
「え?」
「お前の値段」
ミーリアの眉が歪む。
「きいてたの?」
「で?いくら積んだら、お前の部屋に入れるわけ?」
「いくらでもダメよ」
「“勇者“でも?」
「”勇者“でも」
「そう」
それは拒否なのだと思った。
ミーリアが認めた人間だけが、二人で同じ部屋へ入る事が出来る。
そしてそこに、オルディオは入れないという事実だ。
オルディオは歩き出す。
「え、あ、ちょっと!?」
「見回り中なんだ」
それだけを言うと、また街の見回りに戻る。
勇者だから。どんな時でも、やる事だけは変わる事がない。
人を守る。
街を守る。
人々が、安全に暮らせるように。
もうすぐキャンプ地だというところで、くん、とマントが引っ張られた。
「おっと」
後ろを振り返ると、ミーリアが、そこに立っていた。
店からずっと、ついてきていた。
「…………」
黙ったまま、様子を窺う。
ミーリアは、黙ったまま、マントを握りしめていた。
困惑した顔は、なぜか真っ赤に染まっている。
「……誰だってダメなのよ」
「……?」
それは、ミーリアとは思えないほど、小さな声だった。
「あれはそういう男をあしらう方法なだけで、あたしはそんな仕事をしてるわけじゃない」
「…………」
何を聞いてしまっているんだ、とやっと理解が追いついてくる。
黙らせようとした瞬間、決定打は打たれた。
「あ、あたし、経験なんてないから」
マントを持つ手に、力が入る。
上目遣いの瞳が、潤む。
「何、言って……」
オルディオはもう、身体中の熱が上がるのを理解しながら、そこに立ち尽くすことしかできなかった。
いい雰囲気になってきたのでは!?




