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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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✠騎士編 15✠ 新しい服(1)

 それから1時間、二人は“ディーの店”を探した。

 店で聞いてみたり、住人らしき人に声をかけてみたり。見回り騎士のような人に尋ねたりもした。


「ないな……?」

「ありませんね」


 諦めかけつつも、次の店で声をかける。

「済まない、ディーの店、というのを知ってるか?」

「知ってるよ」

「やっぱりそ…………え?」


 カイは、その店主を見直す。

 そこにいたのは、妙齢の女性だった。宝石の店。魔術師が魔力安定に使うための魔術宝具のようだった。


「知ってるよ」


 椅子にドンと腰掛けた女性は、水タバコを手でいじりながら、カイを見上げていた。


「ど、どこにあるんだ?」


 女性は、タバコの先を自分の後ろへ持って行く。


「うちの裏だよ」


「……!」


 カイとルーナが、店の後ろに回ったけれど、そこは暗いばかりで何があるとは言えない場所だった。

 遠く、草の少ない土地が広がっている。この辺りは街の中心部からも遠く、キャンプをしている者達も少ないようだ。


「どこ、だ?」


 バッと店の主人を見る。

 店の主人は、呆れた顔で、テーブルに肘を突いた。

「ずーっと裏だよ」

「裏……?」


 そこから、その何もない場所を二人は歩いた。

 しばらく行くと森が見え、そこに薄っすらと灯りが見えた。


「あれじゃないですか?」


 ルーナがそちらを杖で示すと、杖の宝玉は月の光を反射させた。


 それは、店とも思えぬ小さなロッジだった。


「店、か?」


 窓から灯りが漏れているところをみると人はいるようだが、看板もなければ何の札もない。

 けれど、いくら辺りを見回せど、それ以外に家の一つもないので、仕方なくその扉をノックすることにした。


 ドンドン。


 太い丸太で出来た扉を、ある程度力を入れて叩く。

 しばらく待つと、その扉は、音もなく開いた。


 中から出て来たのは、老人だった。

「いらっしゃい」

 そしてその老人はどう見ても、キャンプで声をかけて来た人物と同一人物だ。


「……じいさん。ディーの店ってのは?」


「ここだよ」

 老人の、気のいい眉毛が片方上がる。

「な……」

 深いため息をついて、カイがへたり込んだ。

「早く言えよ……」


 すると、老人の眉が、もう片方の眉と会話をするようにまた上がった。




 出されたお茶は薄かった。

 店の中は思いの外広い。中の扉もいくつかあるようだった。

 座らされた椅子はルーナには高く、この部屋の中で動くものは、ランプの灯りとぷらぷらとしたルーナの足くらいのものだった。


「で、じいさん。ここで服を売ってると聞いたんだが」


「ああ。売ってるよ」


 けれど、店の中には服の一着も飾ってはいない。

 あるのはテーブルと椅子、それに暖炉の上に置いてある申し訳程度の小さな花瓶くらいなものだ。


「でもその前に」


 老人は、ルーナをじっと見つめた。

さて、どんな新しい服を着ることになるのでしょう?

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