⌘勇者編 15⌘ 引き返すつもりなんてない
オルディオは、自分の手を覗き込んだ。
「人間ばかりなんだ」
そう呟いたオルディオの顔を、ミーリアはじっと見つめた。
「魔物なんて、ほんの一握りなんだ。魔王軍は」
「あ…………」
そこでやっと、ミーリアはオルディオが何を言おうとしているのかがわかった。
「魔王軍のほとんどは……。寝返った人間達だ。だから勇者に生まれたというだけで、僕は……」
オルディオの手は、微かに震えていた。
「あの手触り。血の匂い。もう取れないんだ。僕の手からは」
ミーリアには、オルディオが泣いているように見えた。
実際に泣いていたのかもしれないし、ただ、瞳が陽の光に揺れただけかもしれなかった。
「そんなの……!」
ミーリアが、オルディオに詰め寄る。
間近に迫った瞳が、揺れるのを見た。
「よくはない。どうでもよくはない」
低い声だった。
「でもあなたは勇者だから。それはただ、勇者の仕事をしただけ」
泣きそうなミーリアの声に、オルディオの顔が、くしゃっと歪んだ。
「もう、人間の世界には戻れない」
「そんなことないわ。あなたが守ってる街じゃない」
「血の匂いを知ってしまった僕は、もう、突き進むしかないんだよ」
ミーリアが、オルディオのマントの裾をキュッと握った。
逃がさないように。
二度と、勝手に何処かへいかないように。
何と言っていいかわからなかった。
ただ、目の前にオルディオが居た。
近い。
ミーリアの、唇が震えた。
自分が、キスしてしまうんじゃないかと思った。
けれど、オルディオが、それを許さなかった。
ミーリアの唇に近付いてきたオルディオは、そのままミーリアの肩に額を乗せた。
「ダメなんだ」
オルディオが、そう、呟いた。
わかってしまう。
拒否、されたんだ。
あなたが勇者だから。
人をたくさん殺して来たから。
旅立ってしまう人だから。
生きて帰ってくる保証なんてないから。
でもね。
でも、あたしだってもう、引き返すつもりなんてないの。
あなたがそんな顔をする世界に、未練なんてないの。
ずっとひとりぼっちだったあたしの瞳を、埋めてしまった人。
勝手に決めてしまうあなたの、自由にさせるつもりなんて、もうないの。
ミーリアは、肩に触れるオルディオの熱を感じた。
すぐそばにいるこの人の存在を。
手を伸ばせば届くはずの距離なのに、遠い遠いところにいる勇者という存在を。
そしてあたしは、どうすればあなたに手が届くのか考える。
だって、諦めてなんてあげないから。
ミーリアの頬に涙が流れ落ちた。
それはミーリアの涙だった。
それは、オルディオの代わりに流した、ミーリアの涙だった。
勇者編何話でいけるかな〜。うーん……。




