⌘勇者編 14⌘ 俺は、人間を
ガコン、と色気のない音がする。
木製のジョッキとジョッキを合わせれば、いつだってこんな感じだ。
それもそう。
冒険者達が掲げ、打ち鳴らす、いつ壊れてもいいジョッキならこんなものだ。
そんな音に、感慨深さを感じながら、ミーリアはジョッキの中の酒を煽った。
砂埃舞う街の中。
店の裏手の小さな階段に二人で腰を下ろしていた。
ミーリアの左手の指の先には、オルディオの手が置かれている。重ねるわけにはいかない、ゴツゴツとした剣士の手。
店には、また兵士達が戻ってきていた。オルディオが引き連れていた勇者軍の面々だ。
「そんな仕事だったなんてね」
「最近、魔物の出現方法が変わってきた疑いがあってね。突然くるんだ。魔物達が、学習の速度を上げてるんじゃないかと思う」
「魔物達が?」
ミーリアは魔物というものを思い出した。
オルディオが助けてくれた、あの一場面。
「行ってきた街でもそうだった。大勢の魔物が、人間を……」
ミーリアは言葉の続きを待ったけれど、オルディオがその言葉の続きを言うことはなかった。
言えないほどだったのだろう。
その、凄惨な光景が、きっと今、オルディオの胸に去来しているのだ。
ミーリアは少しだけ手を動かして、オルディオとの隙間を埋めた。
「…………勇者を、辞めるわけには、いかないのよね?」
それは、小さな声だった。
出来るわけがないと知っていて声に出した。
怒られても、仕方のないことだと、理解している。
返事はなかった。
ミーリアが顔をあげると、オルディオは泣きそうな顔をしていた。
「あ……」
やはり失言だったと、口を抑える。
「ごめんな……さ……」
「いいんだ」
オルディオが、ミーリアの手を掴まえる。
「……生まれつき、なのよね」
ミーリアでも知っている事実。
勇者は、生まれつき、身についた能力なのだという。
聖女が探し当てた代は、世界は平和に導かれるという。
「ああ」
オルディオも、あっさりと返す。こんな質問、聞き慣れてしまっているのだろう。
ただのオルディオとして人に接することの方が、きっと少ない人だから。
「でも、そんなことじゃなくて」
ミーリアを掴んだ手が、ゆっくりと離れて行く。
今、離さなければならない理由があるみたいに。
繋いでいると、話せないことでもあるみたいに。
「そうじゃなくて」
オルディオが、ミーリアの方を向いた。
「俺は、人間をたくさん殺しているから」
それは、泣きそうな声だった。
けれど、ハッキリとそう言った。
人間をたくさん殺しているから、勇者として後戻りは出来ないのだと。
ミーリアは、何も言えずに息を飲む。
いい雰囲気ですが〜……。




