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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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⌘勇者編 13⌘ 旅立ったんじゃなかったの?

 そこからは、あっという間だった。

 逃げ出した馬のすぐ後ろまで駆け寄ると、

「掴まってろ」

 そう言って、ミーリアの手に手綱が掴まされた。


 声の主はそのまま馬の上に立ち上がる。

 飛び上がったかと思うと、ロープを持ったまま逃げ出した馬の上へ飛び乗った。


「ちょっ!……!鞍もついてないのよ!?危ないわ!!」


 すると、見知った後ろ姿が、輪にしたロープを馬の首にかけようとしながら言う。

「大丈夫。乗馬は得意なんだよ」


 手綱を引かれなくなったミーリアが乗る馬が、少しずつスピードを落としていく。


 心配をしながらも、ミーリアはどこか安心してしまっていた。

 この人がいればなんだってどうにかなるのだと、根拠のない自信が溢れる。

 いや、根拠はあるかもしれない。

 この人が、勇者だということだ。


 その人は、短い髪を強風の中でバタつかせていた。

 この砂嵐でも耐えうるマントも、風にはためく。


 そしてその男は、サーカスか何かかと思える足取りで馬の上でバランスを取ると、馬の首に、あっさりとロープの輪を通してしまった。

 手綱のように握ると、そのまま、勇者は馬の上にまたがり、馬をポンポンと軽くたたいた。


「大丈夫。大丈夫」


 ゆっくりとスピードを落とし、ミーリアの前で、勇者は馬を止めてみせた。


 カポカポと、呑気な音に変わったミーリアの乗る馬の足音が、勇者の馬のそばまで近付く。


「何やってるのよ……」


 強気なセリフとは裏腹に、声は震えた。


 目の前の勇者が、パッと顔を上げる。

 よく知っているその顔を、見間違えるはずはなかった。


「オルディオ……」


 ミーリアは、泣くことはできなかった。

 泣いてしまったら、バレてしまう。この1週間で、追いかけてしまう寸前まで気持ちが動いてしまったことも。たった1週間ぶりだというのに、顔が見れてよかったと思ってしまったことも。


 けれど、気持ちを抑えきることは出来なかった。


「し、出立したんじゃなかったの……?北の方での話、話題になってて……」


「ああ。今回は、魔物の話があったせいで、一旦、それを収めに行くことになってさ。……また、しばらくここにキャンプを張るつもりだ。また、世話になるよ」


「そうなのね……。てっきり、もう行ってしまったんだと思って」


「まあ、言うわけにはいかないからさ」


「そうよね……」

 ミーリアは少し呆然としたまま、オルディオの話に耳を傾けていた。けれど、すぐ、何かに弾かれたように顔を上げた。


「ほ、本当に出て行く時は教えて!」


「ああ。……あんまり、詳しく、行き先とかは教えられないと思うけど」


「それでも、よ」


「だな。ああ。わかったよ」

そんなわけで、あっという間に再会です。ただ、本当に行ってしまう日もあるわけで……。

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