✠騎士編 12✠ 初めてのキャンプ(3)
「新しい服を買わなきゃな」
なんて優しい声を聞きながら、ルーナは地面に横になっていた。
布団とも寝袋とも毛布とも言えないただの布は、極めて薄く、そのためカイの鞄の中にも2枚が入る優れものだ。
とはいえ、その分保温能力が優れているわけでもなく、ただ、身体を若干隠してくれるという恩恵のためだけに身体に巻いている節があった。
新しい服。
その言葉に高揚を覚える。
なにせ、自分の服というものを買ったことがなかった。いつだって、どこからもらってきたのかわからないゴミのような服を恵んでもらい、満足するしかなかった。
ルーナは、自分の服をこっそりと見る。
煤汚れた服。
いったい、いつ手に入れたものだったか。縫い目はほつれ、布の端は引きちぎりでもしたかのように布地がぼさぼさになっている。
確かにこれを人前で着るのは少し憚られるけれど、服そのものを買ってくれようとするなら、やはりルーナであっても期待してしまうというものだ。
そうだ、今日は新しい服を手に入れる夢を見よう。
風の音が近い。
見渡すと、うっすらと闇の中に木々の輪郭が見え、真っ暗な森にいることがわかる。
その暗さは、ルーナを守ってくれている気がした。
そうだ。私はとうとう、あの場所から逃げられたんだ。
もう、あの小さな物置きのような部屋に帰る必要はないんだ。
なんだか夢のようだった。
いや、きっと夢だと思うとバランスが取れるに違いない。
だって、あんまり期待してしまっても、それが現実になるわけじゃないだろうから。
結局、あの家に戻されることだってあるかもしれないから。
飲み込まれそうな闇が、そこにはあった。
それはどこまでも遠く、果てはここにはないと言っている闇だった。
ルーナは、その闇を見つめる。
ざわついた闇だ。
目を走らせると、空の切れ端が見える。
「眠れないか」
ルーナと同じように、薄い布を身体に巻き付け、同じように森を眺めたカイが、ふいに口を開いた。
「明日からのこと、色々考えてしまって」
カイは、ここまで歩いてきたルーナのことを思った。
それは、居場所をなくし、泣きじゃくった小さな少女の姿だ。
「不安だよな」
「はい。でも……楽しみです」
「そう、か」
ルーナを連れ出してしまったこの行動が、正解なのか不正解なのかわからない。
けれど、もう、後戻りは出来ないのだ。
もう、歩き出すしか道はなかった。
「商店街ドットを出たら、二人で王都へ行こう。そして、勇者とやらのことをどれだけ掴んでいるのか聞かなくては」
あの、俺なんかよりずっと強かった師匠が、本当に死ぬことなんてあるのだろうか。
いや、そんなことを昔の師匠の姿から考えようとしてみても、それは無駄というものだろう。
今はまだ、考えなくていい。
ただ、探さなくてはな。
勇者を。何も考えずに。
次回は……服を買わなくては!




