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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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✠騎士編 11✠ 初めてのキャンプ(2)

 火が爆ぜる。

 パチパチと音が聞こえる。


 ルーナは、初めて火が爆ぜるところを見る。


 冬の夜も、自分の部屋で火が燃えているのを見たことなどない。

 ただ、周りの部屋の暖かさを求めて、壁にへばりついて眠るしかなかった。


 こんなに暖かいものだったなんて。


「これから、商店街ドットへ行こうと思う」


 ルーナはドキリとした。


 商店街ドット。

 名前は聞いたことがある。

 黄金の都アウレリアに程近い場所にある、小さな商店が続く街だ。


 アウレリアからはみ出た小さな店を持つ商人達が形成した、小さな街だった。


 そこへ行く?

 私が?


 これは、喜んでいいことなのだろうか。ピンとはこなかった。


 買い物、と言われても、欲しいものなど何もない。

 行きたい場所も、思い浮かぶ場所などはない。


 けれど、戻れる場所があるわけでも、ない。


「はい」


 そう答えるしか、ない。


 ガサガサと、カイは持っていた地図をルーナの前に広げた。


「これは、何ですか」


 絵のようだった。

 街の名前、街の名前、街の名前。

 山に、川に、海に。


「この国の地図だよ。今、ここだ」


 カイが繊細ともいえない指で指し示した場所には、森があった。そしてその近くには、確かに黄金の都アウレリアと書いてある。そばに書いてある街の絵には、金貨が積まれた絵がくっついていた。


「そしてここが商店街ドット」


 カイの指が、ほんの少し動く。

 そこには、小さな店がいくつも並んだ絵が描いてある。


 え……?


「えーと……、ここから、ここまで、ですか?」

「そうだよ。ここから、ここまで」


 ルーナは目を白黒させる。


 あれだけ歩いたのに、これだけ……?


 かなり歩いたはずだった。それこそ何時間も。

 それなのに、カイは、このほんの少しの距離が、今歩いてきた場所なのだという。

 他にも、地図には数えきれないほどの街の名が書かれていた。


 この世界は、なんて広いんだろう。


 ううん、違う。


 私が生きてきた世界は、なんて狭かったんだろう。


 ルーナが目を上げれば、燃える炎の向こうに、真っ黒な暗い暗い闇が広がっていた。

 この闇がどこまでも続くように、この世界はどこまでも続いているんだ。


 ルーナが奴隷として生活してきたあの店は、外では言えない情報もよく飛び交っていた。

 今度の人間オークションの招待やら、誰かが誰かを暗殺する依頼を出したやら。

 だからルーナは、その小さな店で見えるものは多いと思っていたのだ。


 けど、違う。


 世界はもっともっと店の外に広がっているし、もっともっと広いのだ。


 ルーナの目の奥に光が宿る。

 それは、自分で立ちあがろうとする光だった。


 もっと歩きたい。

 もっと外へ。


 私も、並べるだろうか。

 カイのように自分で歩いて、隣に立てるだろうか。


 この魔術という力で。


 ルーナは、手に持った杖に力を込める。




 それは、一人の小さな少女が、世界を知るための、──そしてカイを、自分を見つけるための小さな決心そのものだった。

ルーナは、字が読めます。店での情報収集やお使いでも文字を使っていたようです。

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