⌘勇者編 11⌘ 当たり前は当たり前じゃなくなったりするんだ
いつもと同じ朝だった。
ミーリアはいつもと同じ時間に目を覚まし、いつもと同じように顔を洗った。
昨日の夜支給された今日の歌姫のドレスになる赤いドレスを身にまとうと、途端に気持ちが引き締まる。
朝食を食べるため、階下へ。
ミーリアは、朝は強い方で、いつも食堂へ入るのはまだ閑散とした時間だ。
「歌姫、おはよう」
「おはよう」
食事を並べにかかっていた厨房のおばちゃんに声をかけられる。
おばちゃんが手に持っている鍋には、トマトベースのスープが入っているようだった。
「あたしも手伝うわ」
「じゃあ、スプーンを並べてちょうだい」
「ええ」
食事の準備をしている間に、ドヤドヤと歌い手を始めとするこの店のスタッフ達が食堂に並ぶ。
挨拶が交わされる。
30人ほどが並ぶ食堂にしては少し手狭な部屋に、押し合いへし合いしてそれぞれが自分の場所を確保する。
いつもの朝だった。
そしていつもと同じように、店いっぱいの客達を相手に、ひょっこりやってくる勇者オルディオを相手に、今日もミーリアは歌を歌うのだと、そう思っていた。
あれ?
ミーリアが店のホールに入ると、いつもよりも客が少ないことに気がついた。
今日は何の日?冒険者達がいないだなんて。祭りでもあった?けど、そういう賑わいなら声くらい聞こえてきてもよさそうなのに。
そこまで考えたところで、店には冒険者がいる事に気がついた。
違うわ。いないのは冒険者じゃない。いないのは……勇者達だわ。
勇者の軍がこの街に根を下ろしてからというもの、この店はそれまで以上に賑わいを見せていた。
なにせ、勇者自体もこの店まで来る事があるくらいなのだから。
どうしていないの?
どうしていつもあれだけ居た勇者軍のメンバーがいないの?
不安が、ミーリアの心に広がっていく。
まさか。そんなわけない。そんな気持ちを抱えて、ミーリアはそのまま店を出て、街の中を駆け出した。勇者の軍があった、あのキャンプの場所へ。
高いヒールが、砂に埋まる。ヒラヒラとしたスカートが、脚に巻き付く。
どうにも走りづらいまま、ミーリアは砂埃の中を駆けた。
町はずれ。
ここまで来ればいつだって、オルディオに会える気がしていた。
そんなわけないのは知っていた。
けれど、会えた時間を知っているから、今日だってそうなんじゃないかって思っていた。
「う……そ…………」
ミーリアが声を上げる。
町はずれには、キャンプはもうすでになかった。
勇者を始めとするみんなは、もうすでに居ない。
複数あったテントは、まるで砂漠で見る幻だったように、そこにあった形跡すら残してはいなかった。
「嘘でしょ?」
オルディオどこ行ったー?




