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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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✠騎士編 10✠ 初めてのキャンプ(1)

 カイが前を歩き、その後ろをトボトボと鳴きながらルーナがついてきた。

 涙は静かに流れ落ちた。

 時々、ルーナの鼻をすする音が聞こえたけれど、それだけだ。


 暗い森だった。

 細いとも太いとも言えない木々が立ち並び、二人の姿を隠してくれていた。

 足元は、獣道とも思えないけれど、どちらかといえば平らなその地面は、ルーナが泣きながら歩いてもそれほど怖くはなかった。


 動物の気配はするが、出てくることはなさそうだった。

 魔物の気配は、カイが感じられる程度ならばいないようだと言ってよかった。


 道なき道を進んでいくけれど、こんな場所の方が、跡をつけられていない確率を上げてくれていると言ってよかった。

 ただ静かに、二人は歩いた。


 昼のはずなのに地面は隅までは見えず、時々倒れた古い木が、空洞を作り小さな動物たちと眠っていた。


「大丈夫か?」


 カイは、時々ルーナを振り返る。

 様子を見る。

 ただ、ルーナは口から吐き出せない感情を外へ追い出すかのように、ホロホロと涙をこぼす。


 返事はない。

 そしてまた歩く。


 そんなことを何度かして、カイが後ろを振り返った時、


 アオーーーーーーーーン。


 狼の遠吠えが聞こえた。


 カイが、反射的に空を見上げる。

 木々の隙間に暗い空が見える。

 緑の葉のざわめきが見える。


「狼がいる。早く……」


 そう言いかけ、カイはあることに気づいた。


 この森に入ってからというもの、狼には会ってはいない。

 狼は集団で行動する動物だからだろうか。

 けれどそれにしても不自然だった。


 カイは、ルーナを見る。


 まさか……、聖魔術の力……なのか?


 あの人は……そんなことができると言っていただろうか。


 あの人の面影を見つける度、心臓に針が刺さっていくようだった。




 そして何度目か、広い空き地に出たところで、カイが立ち止まる。


「今日は、ここでキャンプにしよう」


「はい」


 今の今まで泣いていたと思いきや、思ったよりもルーナの返事ははっきりしていた。


 カイが、火を起こす。

 火を起こしている間、ツキは乾いた枝を近くから拾ってきた。


 木に火がつく。

 ゆっくりと、火が木の上に広がっていく。


 ルーナはそれを見て、ハッとした。


 火だ。


 ルーナの生活の中に、火というものは存在しなかった。


 もちろん、店の厨房には、火が赤々と燃えていた。

 だからといって、ルーナが厨房で火を扱うはずもなかった。

 遠くから見る食料を焼くもの、それが、ルーナにとっての火だ。


 けれど今、火は目の前で爆ぜた。


「きれい、ですね」


 火を前に素直な感想を述べる。


「ああ」

 カイの返事は柔らかい。


 ルーナにとって初めての、夜が始まった。

こんな出だしですが、二人で冒険を始めていただきましょう。

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