⌘勇者編 10⌘ 鎮魂の歌
くたり、とミーリアは闇の中の地面に座り込んだ。
地面は少しぬめる。何のぬめりだかは、考えないようにした。
「今のが……魔物…………?」
こんな田舎町に住むミーリアでも、魔物というものは聞いたことがある。
魔王が従えている、異形のもの。
けれど、どんなものかと問われれば、何の答えも持ってはおらず、ただ、悪いものだと知るだけだ。
あんなものだったなんて。
黒く。生き物のようでいて。空を飛ぶ。
臭いという言葉では表しきれない臭いを発している。
意思を持ち、動く。
「あれは…………何?」
オルディオが、抱き上げるようにミーリアを抱え上げた。
「ただの、魔物だ」
「あんなものと……戦っているの……?」
勇者は強い。
けれど。
だから、大丈夫というわけでもない。
必ず無傷で帰ってくる保証もない。
身体が震える。
あんなものと、戦いに行くの?
止めたい。
けれど、止めようがなかった。
出会った瞬間にすでにミーリアが歌姫だったように、出会った瞬間にはオルディオはすでに勇者だったのだから。
砂埃の中を、ミーリアを抱えたままオルディオがザクザクと歩いて行く。
ストン、と落とされた先は、すでにドニーの店の裏口だった。
ミーリアは、不安な気持ちを口に出すことは出来ないまま、視線を投げるしかなかった。
顔を見上げたままのミーリアの額を、オルディオが撫でる。
「どうかしたか?」
「ううん。少し、びっくりしただけ」
「うん」
オルディオがミーリアを、優しい瞳で眺める。
「大丈夫だ」
「………ええ」
そんな短い会話を置いて、オルディオは、ドニーの店の裏口を開け、ミーリアを押し込むように入れた。
店の中は、まだ騒がしく、料理を作る手を止めてまで、見るものではなかった。
その視線のなさがありがたい。
早くシャワーを浴びてどうにかしたい。
ミーリアはトボトボとシャワーを浴びに足を動かした。
翌日、ミーリアは街外れで、多くの魂を鎮める歌を歌った。
それを聞きつけたオルディオが、後ろに立った。
金色になびく髪を風に揺らし、振り返るミーリアは、昨日よりも少し、大人びた顔をしていた。
ミーリアが笑う。
それは、強がりだったかもしれない。
余裕があるように見せた、ただの笑みだったかもしれない。
けれどオルディオには、想いを抱え、それでも立っている女性の笑みに見えたのだ。
「綺麗な歌だな」
「……ええ。教えましょうか?」
「じゃあ、少しだけ」
砂だらけの世界で、二人は歌を歌った。
ミーリアはこの場所から空気の届くすべての場所に響きそうな歌を。
オルディオは誰かに届きそうな辿々しい歌を。
その瞬間、この世界の片隅は、この世界の全てだった。
泣きそうな笑みをたたえた歌姫は、世界を包む勇者と並んだ。
二人は、小さな歌を歌ったのだ。
まだまだ平和なほのぼの恋愛ですよ!




