✠騎士編 9✠ 奴隷からの解放
ガキン!
足の鉄輪が二つに割れる。
割れ目ができる度、ルーナは泣いていた。
逃げられるはずなのに。
逃げられて、嬉しいはずなのに。
ガキン!ガキン!
そして、両足の鉄輪が外された。
鉄製、だとは思うが、普通の鉄ではないようだった。
この名剣でここまで大仕事になるとは。
こんな鉄輪に奴隷を縛り付ける何かがあるとは思えなかったが、確かにこれではそこらに売っている剣程度では取ることは出来ず、鉄輪が足を縛っている以上、その鉄輪が奴隷の証となり、何処へ行っても奴隷扱いとなってしまうだろう。
逃げても無駄だと思わせるためには、十分なものだ。
地面に座り込み、土にまみれたルーナが、顔を上げた。
森の入口。
木々に隠された場所に、ルーナは座り込んでいた。
「カイ……さん」
ルーナが、カイの名を呼ぶ。
縋るような瞳で。
苦しそうな声で。
今にも溺れてしまいそうだった。
カイが手を伸ばす。
その腕の中でうずくまり、ルーナは静かに泣いていた。
小さい子をあやすように、カイがルーナを抱きしめる。
「連れて来てしまった」
それは、自戒なのか、確認なのか、それとも覚悟の言葉だったか。
「ルーナ」
呼ぶべき名前を呼んだ。
それは、腕の中の小さな少女の名前だった。
「私、帰らないといけないんです」
ルーナが小さく呟く。
「早く帰らないと、怒られてしまうから」
「帰りたい、のか?」
『帰りたい』という言葉は、ルーナの心に重くのしかかった。
『帰りたい』かどうかで言えば、答えなんて一つしかなかった。
「帰りたくない、です」
ルーナは、言葉を噛み締めるように、その言葉を意味を確かめるように、その言葉をゆっくりと呟いた。
「怖……い」
ルーナの瞳に、また涙が浮かぶ。
「怖い、怖い、怖い、怖い」
叫ぶような声で、けれどそれは、とても小さな声だった。
「帰りたくない……!帰りたくないよぉ……」
「ああ。もう、帰らなくていいんだ。俺と一緒に居よう」
カイのその言葉で、ルーナの顔がぎゅっと歪む。
「わからないです」
「……うん。ゆっくりでいいよ」
カイは、ルーナを眺めた。
とはいえ、こんなボロボロの服じゃ、奴隷だと言っているようなものだ。
服を買わないといけないな。
鎖を丁寧に地面から拾い上げ、袋の中へ入れた。
そのままルーナを抱え上げ、森の中へ入っていく。
ルーナは、カイの腕の中で静かに泣いていた。
木陰ばかりの森の中を、ゆっくりと歩いていく。
ルーナが静かに泣けるように。
ルーナが静かに眠れるように。
そして目覚めた時、少しでも笑えるように。
なかなか奴隷解放は一筋縄じゃいかないですね〜。




