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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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⌘勇者編 9⌘ 戦い

 夜だった。

 オルディオが街中を歩いていると、少し離れたところで人の気配がする。

 外にはもちろん、ランプがあちらこちらで光を放っている。

 けれどだからといって、この荒野の街オルテガには、人の歩く姿はない。冒険者であっても、見通しの悪い砂埃の中を歩きたいと思うことはないのだろう。


 星も見えない砂埃ばかりの街で、オルディオは、金色の星を見つけた。


 あいつ……こんな時間に何してるんだ。


 見たところ、周りに誰かがいる気配はない。

 一人でトボトボと歩いている。


 慌てて、声をかけた。


「おい!」


 ミーリアが振り向く。

 いつもの、何の気はないミーリアの顔が見えた。

「あら、あなたなの」


「『あら』じゃないよ。何してるんだ?」


 そばまで寄って、見回りを強化しておいてよかったと、改めて思う。

 もうこの街が勇者軍のキャンプ地になって2週間近くになる。そろそろ魔物が嗅ぎつけてきてもおかしくはなかった。


「お客が、送ってくれってうるさいんだもの。ドニーの古い馴染みだったからちょっと行ってきたの。ついでに注文票がたっくさん取ってこれたわ」


「無茶しないでくれ」


 すると、ミーリアが窺うようにオルディオを下から覗き込んだ。


「あなたが守ってくれるんじゃないの?」


「もちろん守る」


 そこで、ミーリアがキョトンとオルディオを眺めた。

 予想外の言葉だった。


「市民を守るのが、僕の仕事だから」


 ミーリアが、そこで眉をひそめた。

「……そうよね。勇者だもの」




 その瞬間だった。


 オルディオは、空気が冷えるのを感じた。

 こんな砂ばかりの街で、冷気だなんて。


 けれど、オルディオはその冷気がなんなのかを知っている。


 これこそが、魔物だ。


 周囲に、5……6……。


 これほど囲まれるまで気づかなかったとは。

 やはり、聖女がいない弊害が出ている。


 剣に手をかけ、唱える。


「過去より受け継がれし宿縁、──抜剣」


 抜剣詠唱。

 詠唱を行い、剣を抜く。

 その瞬間、空気が止まる。

 重くなる。


 青白く光る剣は、聖剣と呼ばれるものだ。


 まるでその刃自体が光っているのではないかというほどの光。


 その剣の重さが伝わっているのではないかと思えるほどの重み。


 オルディオは、ミーリアを抱き抱え剣を一閃した。


「えっ……!?」


 ミーリアが状況を理解する間もなく、目の前で、黒い何かが弾け飛んだ。


「何……っ」


 暗くてよく見えない。

 けれど、ミーリアには、それが何か悪いものなのはよくわかった。


 黒い翼だったもの。

 黒い足だったもの。

 黒い何かだったもの。


 理由のない恐怖。


 オルディオの剣が、飛んできた黒いものに突き刺さる。


 その瞬間、見てしまった。

 人間サイズの。けれど人間ではない、何か。

 顔がある。目がある。鼻がある。口がある。けれど、何かが“違う”と警笛を鳴らす。


 3匹。4匹。


 そこで、オルディオの剣が止まった。


「待て!!」


 ミーリアの頭の上で、オルディオの叫ぶ声が聞こえた。


 魔物は逃げていってしまったのだ。


 その街に、勇者と歌姫が存在することを確認して。

戦闘シーンですね!勇者なので、持っている剣は聖剣です!

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