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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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✠騎士編 8✠ 砕けた鎖

 地面の上に、鎖の破片が散らばる。

 カイはじっと耳を澄ませた。

 鎖に魔術がかかっていれば、持ち主に伝わるかもしれない。


 ……魔術の震えはないが。


 大丈夫だろうという算段をつけて、カイがルーナを抱え上げた。

「……っ!」

 肩に抱えられたルーナが、声を出せないまま叫ぶ。

 暴れようとしたけれど、細い腕をいくら振り回しても、カイの背中すら満足に叩くしかできない。


 もうその肩から落ちないように掴まるしかできなかった。

 カイが抱え上げているので、落ちることはないのだろうけれど。


 激しい振動の中で、暗い路地が後ろへ飛んでいく。


 狭い路地の中、突然、ギッと扉が開き、カイが立ち止まった。

 通路は、扉で塞がれている。


 カイの息が止まっているのを感じることで、今がどれだけ張り詰めた状況なのかが段々、体感としてわかってくる。

 脚はぶらりと下へ下ろしているけれど、いつもほど重みがない。


 なんてことをしてしまったんだろう。


 目の前には、暗い路地が、遠く遠くまで続いている。


 ここはどこだろう。


 知っている場所だろうか。


 地面に降りたらわかるだろうか。この視点では、いつもよりずっとずっと高い場所だから。


 帰れるだろうか。


 ここから一人で、帰れるだろうか。


 帰るって、何処へ?


 鎖を粉々にしてしまって、怒られるに決まってる。


 この鎖は、元通りになるだろうか。


 元通りに?


 私を縛っていたこの鎖を?


 元に戻るのは怖い。


 せっかく鎖を切ってもらったのに。


 鎖があることが煩わしかったくせに。


 鎖を持たないことが、こんなにも怖いなんて。


 カイが、また走り出す。


 過ぎ去っていく道が怖い。

 左斜め、左、右。

 覚えきれない。


 カイの背を、ぎゅっと掴む。


 怖い。


 怖い。


 どこまで行けばいいんだろう。


 ああ、こんな場所まで来て、きっと怒られてしまう。


 今日はこんなところまで来て、大丈夫な日だっただろうか。

 今日は、何時までに戻ればいいんだっけ。


 泣きそうになった一瞬、バッと視界が開けた。


 眩しい。

 眩しい。

 これは何?


 見渡せば、明るい街だった。

 けれど、もう街外れなのだろう。家もまばらで、時々民家が見える程度だ。


 道が見える。

 轍のある道だ。馬車が走る道なんだ。

 微かに土埃が巻き上がる。


 ルーナが顔を思い切り上げると、教会が見えた。

 屋根の上には、何処かの綺麗な人が乗っている。


 背の高い屋根がたくさん見える。

 キラキラと陽光の中で瞬くので、この街は黄金の都と呼ばれる街だ。

 人間すらも金で買える黄金の都。


 涙と揺れでブレていく世界の中で、街がルーナからどんどん遠ざかっていく。


 どんどん遠ざかっていく。

さて、こんな状況ですが、旅立ちです。

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