導かれた村。
村人たちが寝静まった頃。
二つの月は、村をひっそりと照らしている。
「俺は、酒場の方を調べる。カティは教会を頼む。」
カティは頷く。
監視はされている、気を抜くつもりはない。
「二手に分かれたほうが効率がいいだろ?」
カティは肩をすくめる。
「笑えない冗談だな。」
俺たちは二手に分かれる。
カティは、黒いマントを羽織りヒラリと屋根の上へ。
俺は忍足で建物の影に隠れながら、周囲の様子を伺う。
まだ監視されている事を肌で感じる。
いつ襲われてもいいように周囲へ警戒しながら、夜の闇に紛れて進む。
幸い、近くに人の気配はない。
酒場の裏口へと俺は身を隠しながら進む。
酒場の裏口には、積み上げられた箱やまとめられた生ごみ。
触れないように気をつけて裏口を目指す。
裏口の扉が軋みながら開く。
俺は身を隠し、周囲への警戒を続ける。
周囲の動きはない。
闇の中、目を凝らしそれを探す。
カティなら魔力の痕跡を追えるが、俺には無理だ。
シマの教えを思い出す。
「気で感覚を強化する。」
修行の成果を試すときかな。
俺は口元を歪める。
呼吸を整え、体の力を抜く事を意識する。
全身の皮膚の感覚を開く事を意識する。
あの紫の小瓶から感じた違和感を探してみる。
湿った空気。
テーブルの古びた木材の感触。
シチューの残り香。
感じるものを一つ一つ確認していく。
…あった。
目を開けた俺は、棚の奥にしまわれた紫の小瓶に手を伸ばした。
その瞬間、ランプの光に照らされ俺は目を細める。
「誰だ。」
俺の視線の先には、昼間の店員がいた。
ランプの反対の手には包丁。
ランプの光を受けてきらりと光る。
俺は黙って両手を上げた。
「あんたか、何してる。」
その問いを俺ははぐらかす。
「覚えていたのか?」
「この村で旅人は目立つ。何より良き隣人が教えてくれる。」
店員は無表情のまま答えた。
俺は店員の指示に従い、素直に立ち上がった。
その頃カティは、はやる気持ちを抑えようとしていた。
ヨシュアの痕跡に近づいている。
物音を立てずに屋根から屋根へと移動する。
「不祥の弟子よ、何を考えておる。」
カティは唇を噛み締める。
教会は、真っ暗だった。
神父も寝ているのだろう。
カティは魔力感知を行い、安全を確認する。
変な魔力の流れは感じない。
人の気配もない。
夜の闇に紛れて、教会へとするりと忍び込む。
闇の中、三角のシンボルが月の灯りに照らされている。
静寂が辺りを包む。
息遣いさえ、憚られるほどだ。
カティはギョッとする。
祭壇の前の椅子には昼間の神父が座っていた。
「迷える子羊よ、何をお探しかな?」
神父は、無表情に問いかけた。
「弟子を探しておる。それだけじゃ。」
「どのような方でしょうか?」
「10代半ばの少年だ。伸びかけた黒髪の。」
神父は頷く。
「私たちを導いてくださった方ですね。」
カティは怪訝な顔をする。
「ヨシュア様のおかげで、今は心安らかに生活できるようになりました。」
無表情な神父の顔を月の明かりが照らしていた。




