存在する価値。
俺は赤龍亭で管を巻いていた。
ルーシーも迷惑顔である。
「ヨシュアは一体どこに行ったんだ。連絡一つよこさないで。」
俺は空になったグラスをルーシーに押しやる。
「ジョニー、飲みすぎよ。まだお昼よ。対して強いわけでもないくせに。」
「うるさい。酒をくれ。」
マスターも呆れ顔である。
赤龍亭のドアが軋みながら開く。
閑散とした店内を窓から差し込む光が照らす。
「こんなところにおったのか。」
カティは、俺の隣にの席に腰を下ろす。
「ドレの事を覚えておるか?」
「もちろんだ。羊の時のやつだろ。」
「どうも奴の様子がおかしいらしい。」
「…。元々少しおかしい奴じゃなかったか?」
カティはルーシーに俺のグラスを下げさせる。
「下戸のくせに飲みすぎるからそんな風になるんじゃ。」
俺は肩をすくめる。
「シマは、逝ったのか。」
俺は頷く。
カティはルーシーに葡萄酒を頼む。
「去っていった友に。」
グラスを持ち上げ、一息で飲み干す。
「シルヴィアが知らせに来た。ここ数日様子がおかしいとな。」
「様子、見にいくか。」
俺は渋々立ち上がる。
今回は馬を借りれたため、俺達は半日ほどでドレの屋敷に着いた。
酒はだいぶ抜けた気がする。
執事の男が出迎えてくれる。
「その節はありがとうございました。」
言いながら、屋敷の中へ案内してくれる。
今回は応接室ではなくて、キッチンの方だ。
「最近、ドレ様は変わってしまわれました。」
あの時の年配の女が話し始める。
「あの時の事件以来、気晴らしにと始めた散歩も『効率が悪い』と行かなくなってしまいました。部屋からほとんど出てきません。」
女は目元をハンカチで押さえる。
「羊の世話も、私や羊飼いに任せたままです。」
カティは話も上の空に、周囲をゆっくりと見渡している。
「いつ頃からだ?何か変わったことがあったのか?」
俺の問いに、女はしばし考え込む。
「これはいつからここにあるんじゃ?」
カティが指差した先には、紫色の小瓶。
他の調味料に紛れて目立たないようにひっそりと置かれている。初めからあるのを疑っていなければ見つけられなかっただろう。
俺が小瓶に触った瞬間、淡い光と共に文字が浮かび上がる。
『人類は、このままで存在する価値があるのか?』
俺とカティは、その文字を見つめる。
そこにヨシュアがいるかのように。
俺は心の中でヨシュアに問いかける。
「何が問題なんだ。」
ドレの様子を見に行く。
個室でベッドに腰掛けていたドレは俺達に気がつき、口元を歪める。
「待っていたよ。」
開け放たれた窓から、風が夕闇を運んでくる。
「種としての人類は、このままでは滅びに向かって行く。そうは思わないか?」
ドレはそう言った後、静かに立ち上がり窓の外を眺め黙り込む。
俺達がいないかのように。
そして、空に浮かぶ二つの月に向かって囁くように呟いた。
「すべてはユートピアで明らかになる。」
俺は漠然とした不安を抱え、屋敷を後にした。
カティの店に着いた俺達は無口なまま、カウンターの椅子に座る。
「ヨシュアを探しに行こう。」
俺はカティの目を見つめながら告げる。
「ユートピアがどこにあるのか、知っておるのか?」
「…いや。」
カティはやれやれというように大きなため息をつく。
「以前の魔王の居城がある場所じゃ。」
カウンターの中でガラクタの山に手を突っ込んでいたカティが、古びた地図を取り出し、カウンターへ広げる。
「ここが今いるアスクレウス王国。北にはベルがいるアキダリア。東の方にあるのがヘラス公国じゃ。」
カティの指が地図の上を辿る。
「ヘラス公国の北に位置するのが、ユートピア砂漠。別名、死の砂漠。つまり…。」
「つまり。」
「かなりの長旅になるな。」
構うもんか。ヨシュアを正気に戻してやる。たとえ世界の果てに居たとしてもだ。




