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赤龍亭と天井桟敷の人々〜第一部〜  作者: now here man
第二章 鬼ごっこ編

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存在する価値。

俺は赤龍亭で管を巻いていた。

ルーシーも迷惑顔である。

「ヨシュアは一体どこに行ったんだ。連絡一つよこさないで。」

俺は空になったグラスをルーシーに押しやる。

「ジョニー、飲みすぎよ。まだお昼よ。対して強いわけでもないくせに。」

「うるさい。酒をくれ。」

マスターも呆れ顔である。


赤龍亭のドアが軋みながら開く。

閑散とした店内を窓から差し込む光が照らす。

「こんなところにおったのか。」

カティは、俺の隣にの席に腰を下ろす。

「ドレの事を覚えておるか?」

「もちろんだ。羊の時のやつだろ。」

「どうも奴の様子がおかしいらしい。」

「…。元々少しおかしい奴じゃなかったか?」

カティはルーシーに俺のグラスを下げさせる。

「下戸のくせに飲みすぎるからそんな風になるんじゃ。」

俺は肩をすくめる。

「シマは、逝ったのか。」

俺は頷く。


カティはルーシーに葡萄酒を頼む。

「去っていった友に。」

グラスを持ち上げ、一息で飲み干す。


「シルヴィアが知らせに来た。ここ数日様子がおかしいとな。」

「様子、見にいくか。」

俺は渋々立ち上がる。


今回は馬を借りれたため、俺達は半日ほどでドレの屋敷に着いた。

酒はだいぶ抜けた気がする。


執事の男が出迎えてくれる。

「その節はありがとうございました。」

言いながら、屋敷の中へ案内してくれる。


今回は応接室ではなくて、キッチンの方だ。

「最近、ドレ様は変わってしまわれました。」

あの時の年配の女が話し始める。

「あの時の事件以来、気晴らしにと始めた散歩も『効率が悪い』と行かなくなってしまいました。部屋からほとんど出てきません。」

女は目元をハンカチで押さえる。

「羊の世話も、私や羊飼いに任せたままです。」


カティは話も上の空に、周囲をゆっくりと見渡している。

「いつ頃からだ?何か変わったことがあったのか?」

俺の問いに、女はしばし考え込む。

「これはいつからここにあるんじゃ?」

カティが指差した先には、紫色の小瓶。

他の調味料に紛れて目立たないようにひっそりと置かれている。初めからあるのを疑っていなければ見つけられなかっただろう。


俺が小瓶に触った瞬間、淡い光と共に文字が浮かび上がる。

『人類は、このままで存在する価値があるのか?』


俺とカティは、その文字を見つめる。

そこにヨシュアがいるかのように。


俺は心の中でヨシュアに問いかける。

「何が問題なんだ。」


ドレの様子を見に行く。

個室でベッドに腰掛けていたドレは俺達に気がつき、口元を歪める。

「待っていたよ。」


開け放たれた窓から、風が夕闇を運んでくる。


「種としての人類は、このままでは滅びに向かって行く。そうは思わないか?」

ドレはそう言った後、静かに立ち上がり窓の外を眺め黙り込む。

俺達がいないかのように。


そして、空に浮かぶ二つの月に向かって囁くように呟いた。

「すべてはユートピアで明らかになる。」


俺は漠然とした不安を抱え、屋敷を後にした。


カティの店に着いた俺達は無口なまま、カウンターの椅子に座る。

「ヨシュアを探しに行こう。」

俺はカティの目を見つめながら告げる。

「ユートピアがどこにあるのか、知っておるのか?」

「…いや。」

カティはやれやれというように大きなため息をつく。

「以前の魔王の居城がある場所じゃ。」

カウンターの中でガラクタの山に手を突っ込んでいたカティが、古びた地図を取り出し、カウンターへ広げる。


「ここが今いるアスクレウス王国。北にはベルがいるアキダリア。東の方にあるのがヘラス公国じゃ。」

カティの指が地図の上を辿る。

「ヘラス公国の北に位置するのが、ユートピア砂漠。別名、死の砂漠。つまり…。」

「つまり。」

「かなりの長旅になるな。」

構うもんか。ヨシュアを正気に戻してやる。たとえ世界の果てに居たとしてもだ。

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