託されたもの。
静かな朝。
日が出る頃には、止まり木亭を後にした。
向かう先は、シマの家。
通いなれた道を歩きながら、昨日の事を思い出す。
…カティが爆炎の魔法使いだったとは。
伝説の英雄じゃないか。
シマもその時の討伐メンバーってことは、レジェンドクラスの使い手という事だ。
そのシマが、今回の件にはついてこれないという。
…ヨシュア、お前は今どこで何をしているんだ?
俺は道端の小石を蹴飛ばす。
小石は雑草が生い茂る、茂みの中は吸い込まれていった。
森の中は静寂に包まれている。
コカトリスの時とは違い、生命の鼓動を宿した静けさ。
シマは川の横の石の上で、あぐらをかいて座っている。
川の方を向いているが、目を閉じて集中しているようだ。
俺が近づいても、その姿勢を崩さない。
ただ、川のせせらぎだけが二人を包む。
「ジョニー、待っていたよ。」
シマは振り返らずに言う。
「…今から、お前に渡すものがある。」
シマはゆっくりと振り返る。
「気の奥義だ。」
俺は、息を飲み込む。
シマの目はいつもより深い青。
俺の心の中を覗き込んでいるかのようだ。
「この力は、一子相伝。」
シマの落ちついた口調が、俺の心に直接語りかけているような感覚。
「お主に全て渡す。私の命と引き換えに。」
俺は面食らう。
命と引き換えだって?
「…そんなもの受け取れない。」
シマはゆっくりと頷く。
「わしも師から受け取った時は、そう思った。」
俺は唾を飲み込む。
喉がカラカラだ。
俺はいつのまにか、緊張しているようだ。
「今のままのお主では、ヨシュアを止めることは出来ん。…分かっているだろ。」
シマは俺の前に立ち、胸の前で両手を合わせる。
深呼吸と共に、徐々にシマの手が黄色く光出す。
シマは、ほのかに光る手を俺の両手と重ねる。
俺の手に軽く衝撃が走る。
硬直する体。
…俺の意識の中に、シマの意識が入ってくる。
前回の魔王討伐の際の光景なのか、黒く染まった背景の中に、光に照らされた若い男のビジョン。
微かに、カティの姿も見える。
俺は呼吸が荒くなるのを感じている。
自分の体ではないような感覚。
シマの、フラッシュバックする感覚を俺も経験しているようだ。その瞬間を体感しているかのような感覚に陥る。
ふと、我に帰る。
シマはぐったりとし、俺に寄りかかる。
力なく、寄りかかるだけの老いた体。
「わしの力を全てお主に託す。あの時のカティやわしと同じ過ちを繰り返すな。」
言いながらその瞼は力なく閉じられ、2度と開くことはなかった。




