余韻。
紫の小瓶をギルドに鑑定に出す。
この小瓶が原因であることが特定できれば、赤龍亭は営業停止を免れるだろう。
マスターはランプを見つめながら呟く。
「…ありがとう。」
マスターには、全て伝えた。
赤龍亭には俺とカティとシマの三人で来た。
「少し、過去の話でもするか。」
カティが葡萄酒の瓶を指先で撫でる。
「わしとシマ、マスターとローラの四人で以前パーティーを組んでいた。」
シマが頷く。
「当時のカティは、爆炎の魔法使いと呼ばれていたね。」
「俺がリタイアした後も、カティとシマは冒険を続けて、最後には魔王を倒した。」
マスターが、それぞれのグラスに葡萄酒を注ぐ。
「カティが異様に顔が広いのは、その時の冒険のおかげなのか?」
俺の問いにシマが頷く。
「世界中を旅したからな。ベルの親父に世話になったのもその時だ。」
カティは懐かしむように、グラスの葡萄酒を見つめる。
「…あの時、ヨシュアが爆炎の魔法使いを探していることを知って、心底驚いたんじゃ。」
葡萄酒を一口飲み、カティは続ける。
「あの時、何かが始まっていたんじゃな。」
カティは懐かしむように、後悔するように呟く。
「倒した際の魔王の言葉が、いまだに引っかかっておる。」
「次の魔王が現れるまで、貴様が選んだ世界を楽しむが良い、だったな。」
シマが、ランプの揺れる灯りに照らされる。
マスターは無言で干し葡萄をひとつまみ口に放り込む。
俺は、カティの横顔をじっと見つめる。
疲れた顔だ。
「魔王と似ているんじゃ、ヨシュアは。」
カティはグラスの縁を指でなぞる。
「今回は、結末を変えることができるのではないかと思った。…いや、期待した。」
…後悔か。
カティの後悔が、言葉だけではなく伝わってきた。
「まだ、間に合うかもしれないだろ。」
俺はカティの肩に、そっと触れる。
「俺達で止めればいい。」
俺は残りの葡萄酒を飲み干す。
「ヨシュアをぶん殴って、正気に戻らせてやる。」
「私はついていけないよ。歳をとりすぎてしまった。」
シマが、急に小さく見えた。
「ジョニーに託すものがある。」
シマの手が俺の手に触れる。
深い皺が刻まれた暖かい手。
「お前に覚悟があるのなら、気のレベルをもう一段階引き上げることは可能だ。」
…俺は頷く。
「明日、私の家に来なさい。」
シマは赤龍亭を後にした。
彼のグラスは手付かずのまま残されていた。




