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赤龍亭と天井桟敷の人々〜第一部〜  作者: now here man
第二章 鬼ごっこ編

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鬼ごっこ始めます。

「飯は最高に美味かった。」

患者の男の第一声。

「だが、食べた後しばらくして悪寒がした。そして、気がついたらここさ。」

肩をすくめる男。


なんとか食中毒の男を見つけ出した俺とカティは、病室で話を聞いている。


開け放たれた窓からは、絡みつくような生ぬるい風が入ってくる。


「済まないが、窓を閉めてくれないか。」

男の言葉に俺は腰を上げる。

「このままじゃ効率が悪い。」

首を傾げるカティ。

「効率が悪い?」

男は頷く。

「布団や家具が湿気を吸ってしまうだろ。寿命を縮めてしまう。」

俺は、心に何かが引っ掛かりながら窓を閉める。


カティは天井を見上げながら話を続ける。

「他には何かないのか?」

「…強いて言えば。」

男はカティを見つめて続ける。

「無駄なものが削ぎ落とされた感覚がある。」


…病室に沈黙が流れる。


窓を閉めたはずなのに、俺の体には不快感がまとわりついたままだ。


その後いくつか質問したが、何も得るものはなかった。

妙な違和感が引っかかったまま、俺達は言葉少なく赤龍亭に向かう。


準備中の看板が下がったままのドアを開け、店内へ。

ランプの灯りが、閑散とした店内を照らす。


マスターに声をかけ、厨房を見せてもらう。

「あの日以来、何も触ってない。」

マスターの言葉に頷き、厨房へ入る。

調理器具や調味料が整然と並べられている。

マスターはああ見えて意外と几帳面らしい。


なんの変哲もない、厨房だ。

隅から隅まで見て回る。


俺はふと目を止める。

微かな、違和感。


「この調味料はなんだ?」

紫の小瓶を指差す。

「卸屋の新商品だそうだ。まだほとんど使ってない。」

マスターは腕を組み、記憶を辿るように目を細める。

「…確か、あの時の料理にも使ったな。」


カティが小瓶を手に取る。

「微かな魔力を感じるな…。」

カティは首を傾げる。

「ヨシュアの魔力じゃ。」


マスターから小瓶を預かり、俺達は赤龍亭を後にする。


夕焼けに包まれた歩道に二人の影が伸びる。

「この件にヨシュアが絡んでいるのか?」

俺の問いにカティは考え込む。


「…かもしれんな。」

カティは呟くように言った。


俺達は、ヨシュアが住んでいた部屋へと向かう。

あの日以来戻っていないと家主から聞いた。

カティが話すと、家主は快く部屋の鍵を貸してくれた。

どうやら家賃はカティがまとめて支払ってくれているらしい。


軋むドアを開け、部屋に入る。

時が止まったような感覚。


部屋の中には、人が住んでいた痕跡は感じられない。

備え付けの家具、カーテンのない窓。

ランプの灯りに微かに埃が舞う。


備え付けの小さな机に微かな違和感を感じる。

俺はそっと手で触れてみた。


机が微かな振動と光を放ち始める。

思わず手を離す。

「慌てるな。」

カティの言葉に平静を装う。


ぼんやりとした光に包まれて、机の表面に滲むように文字が浮かび上がる。

「待っていたよ。鬼ごっこをしよう。」

その文字をカティはそっと指でなぞった。

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