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赤龍亭と天井桟敷の人々  作者: now here man
第二章 鬼ごっこ編

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ペトリコール。

体に纏わりつく湿度が鬱陶しい。

肌にシャツが張り付く感覚が不快だ。


空には淀んだ雲。

今にも泣き出しそうな空だ。


修行を終えた俺とシマは赤龍亭を目指す。

足取りは重い。


何故かは、わかっている。

ここ数日、修行の合間にヨシュアの行方を探しているがめぼしい情報はない。


軋むドアを開けて赤龍亭の店内へ。

…静かすぎる。


ランプの灯りがぼんやりと照らす。

閑散とした店内。


マスターとルーシーが並んでカウンター席に座っている。…奇妙な雰囲気を感じる。


「どうしたんだ?」

俺はマスターに声をかける。

マスターは手元のグラスをじっと見つめている。


「まずいことになっちゃった。」

ルーシーが呟く。

「どうされたんですかな。」

シマの問いにマスターが重い口を開ける。

「ウチで飯を食った客が食中毒になったんだ。」


…沈黙が俺たちを包む。


「このままだと営業許可を取り消されちまう。」

マスターが吐き出すように言う。


いつのまにか雨が降り始めたのだろう。

雨の匂いを嗅いだ気がした。


「ウチは新鮮な食材しか使ってないし、衛生面も気を遣ってる。…食中毒なんてあり得ないんだ。」


俺とシマもカウンター席に座る。

「食中毒になったって奴も、初めて来た奴なんだ。」

マスターは苦々しく、呟いた。


「…裏に何かがあると。」

シマの言葉にマスターは頷く。


「ちょっと調べてみるよ。」

俺は席を立つ。

「…すまん。」

マスターの言葉を背に、俺達は赤龍亭を後にした。


外は降り始めの小雨。

地面から立ち上る、雨の振り始めの匂いに包まれる。


カティの店に顔を出す。

「どうしたんじゃ。ずぶ濡れではないか。」

俺とシマは、徐々に強さを増す雨に濡れてしまった。

「風邪引くぞ。」

カティが渡してくれたタオルで濡れた体を拭く。

思っていたより、体が冷えていたようだ。


「赤龍亭の話、聞いているか?」

俺の問いにカティは頷く。

「あからさまに怪しい話じゃな。」

俺は頷く。


カティが入れてくれた紅茶のモルティな香りが、店内を包む。


シマが口を開く。

「この前のサンドイッチは美味かったね。」

「ああ、いつも飯が美味い。」

「だからこそ…。」

カティは紅茶を一口飲み、続ける。

「狙われる。」

カティの言葉が宙を漂う。


紅茶の暖かさが体に染みる。


俺は頷く。

「いつでも美味い飯を食いたいよな。」

「そうじゃな。」

カティは紅茶のカップを見つめている。

答えを探すように。


…雨が激しく屋根を叩き始めていた。

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