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赤龍亭と天井桟敷の人々  作者: now here man
第二章 鬼ごっこ編

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コカトリスのホワイトグラタン

赤龍亭へ戻った俺達は、ヨシュアが先に戻っていないか確認する。


まだ、誰も見かけていない。

俺は首を振り、不安をかき消す。

「そのうち、ひょっこり顔を出すじゃろ。」

カティの言葉と裏腹な表情が引っかかる。


テーブルのヨシュアのための席は空いたままだ。


…ルーシーが出来立ての、湯気を立てた皿を持ってきた。

皿を置いた瞬間、空気が変わる。

「まずは腹を満たそう。」

カティの言葉に俺は頷く。


まず来るのは、焦げたチーズの香ばしさ。

その奥に、バターをたっぷり吸ったベシャメルソースの甘く濃厚な香りが、ゆっくりと鼻腔を満たしてくる。


「熱いから気をつけて。」

ルーシーの一言が、逆に食欲を煽る。


スプーンを差し入れた瞬間、表面の焼き目が“ぱりっ”と小さく割れる。

その下から現れるのは、白くなめらかなソースの海。

とろり、と流れ出すそれは、重たく、それでいて絹のように滑らかだ。


カティは、手をつけず、空いた席を見つめている。


俺は構わず、目の前に集中する。

スプーンを持ち上げれば、チーズが糸を引く。

どこまでも、どこまでも、執念深く絡みついてくる。


一口。

舌に乗せた瞬間、熱が弾ける。

しかしすぐに、バターとミルクのコクがそれを包み込み、暴力的なまでの旨味へと変わる。


カティは葡萄酒を唇を湿らせる程度に口に運ぶ。


主役のコカトリスは、しっとりと火が通っている。

噛めば、じゅわり、と肉汁が滲む。

淡白さなど微塵もない。むしろソースと結託して、口の中で“濃厚の極み”を形成してくる。

「美味いな…。」

思わずヨシュアの席に向かって話しかけようとするのを止める。


マカロニは控えめだ。

だがその分、すべてを受け止める器として機能している。

ソースをまとい、チーズを絡め、肉の旨味を吸い込んだそれは、もはや単なる添え物ではない。

微かに感じる不安を追い払うように、俺はスプーンを持ち直す。


気づけば、スプーンが止まらない。

熱い。

だが、やめられない。

やめたくないと思う。


皿の底に近づくほど、味はさらに濃くなる。

焦げたチーズの破片が混ざり、香ばしさが加速する。

最後の一口が、いちばんうまい。

…だからこそ。

ヨシュアにも食べさせてやりたい。そう思った。


カティは、空席のままのヨシュアの席を見つめたまま口を開く。


「…探しに行くとするか。」

カティの言葉に俺は頷いた。

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