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赤龍亭と天井桟敷の人々  作者: now here man
第一章 迷える子羊編

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狩りに行こう。

薄曇りの春の日。

少し冷たい、爽やかな風が吹き抜ける。

西の空には消えかけた月が2つ、並んでいる。


日が出てまだ間もない時間。すでに2人とも胡桃の木下で待っていた。

「遅いぞ。」

カティが笑いながら言う。

「まだ夜が明けたばかりだぞ。」

俺は肩をすくめる。

ヨシュアは、無言で俺たちを見つめている。


3人は、胡桃の木下からコカトリスが出没するという雑木林へと向かう。


鬱蒼とした雑木林は、異様な雰囲気を放っている。

獣の痕跡はあるが、鳥の囀りなど生命の営みが感じられない。

静寂が辺りを包む。


カティは雑踏の中と同じく、自分以外のものが存在しないかのように、軽やかな身のこなしで歩みを進める。


ヨシュアは、多少の物音など気にせず最短距離を進む。

「ヨシュア、獲物に気づかれないように静かに歩け。」

ヨシュアは怪訝な顔をする。

「音を立てないことにリソースを割くのは、非効率だよ。」

それを聞いたカティは、肩をすくめる。


コカトリスのテリトリーに近づいて来たのだろう、石化したキツネ。

俺は状態を確認する。

毛の一本一本まで精密に作られた彫刻のようだ。

指で触ると、表面はざらついているが完全な石である。

付近の痕跡からして、石化されたのはつい最近のようだ。


付近を捜索すると、鶏によく似た、だが明らかにサイズがおかしい足跡が見つかる。

付近の木や下生えに、大型の動物が通った痕跡を見つけた。

茂みを掻き分け、痕跡を辿っていく。


…鼻をつくような異臭。

獲物との距離はだいぶ近い。


警戒心を高め、慎重に進んでいく。

「…。」

カティの異常を感じる。


俺は警戒を解かずに、カティの側へ近寄る。

「しくじったな…。」

カティの左手、指先から石化が始まっている。


ヨシュアは気配もなく、そばに来ていた。

「この段階であれば、僕の魔法で解呪出来るよ。」

異様に落ち着いた声。

…もっと慌ててもいいんじゃないか?

些細な違和感が浮かぶが、俺は無視する。


俺は周囲に警戒しながら、ヨシュアの処置を見守る。

…カティは、ヨシュアの目をじっと見ている。


ほのかな光に包まれたカティの指先が、徐々に血の色を取り戻していく。


ヨシュアは回復したカティの指先を感触を確かめるように触る。

「機能的な問題はない。」

ヨシュアは感情を込めず、喋る。

「機能的?」

口を開きかけた俺を、カティが手で制する。

「わしの注意不足だった。すまん。」

カティが答える。

「作戦行動への影響は軽微だ。」

感情を感じさせないヨシュアの言葉が宙に舞う。


カティの回復を確認した俺は二人に声をかける。

「一旦、体勢を立て直すぞ。」

俺達はその場を離れる。


周囲への警戒を解かずに、雑木林から離れる。

適度なスペースを見つけ三人は腰を下ろす。

ひとまず火を起こし、小型の鍋で湯を沸かす。


沈黙が三人の間に流れる。


俺は顎を触り、しばらく考えた後に口を開く。

「先程の場所の近くに獲物がいるのは間違いないな。三人でフォーメーションを決めて獲物を仕留めよう。」

二人は頷く。

「俺が先行して、獲物の位置を特定する。できればクロスボウで仕留めたいが、この雑木林では無理だ。」


ヨシュアが口を開く。

「僕も攻撃魔法が使えるわけじゃないから、直接的な攻撃は出来ない。」

「わしが攻撃魔法で突貫しても良いが、周囲への被害は保証できんな。」


…鍋の湯が沸いたようだ。

俺は茶を入れて、二人へ手渡す。


「罠に誘い込んで、動けなくなったところを仕留める。」

二人とも異議はないようだ。


「罠を設置した後、俺とヨシュアで獲物を追い立てる。罠にハマった獲物をカティが仕留めるってのはどうだ?」

ヨシュアが口を開く。

「わかった。」

カティは、どこか上の空だ。


俺は枯れ枝で地面に図を描く。

想定されるコカトリスの位置、罠の設置場所。

俺とヨシュアの位置、カティの待機場所。


俺は罠を設置するために先行して雑木林へ。

しばらくしたら、二人も所定の位置に移動するように打ち合わせている。


「ヨシュア、初級の攻撃魔法は使えるであろう。なぜジョニーに隠す。」

「隠すから、いいんでしょ…。」

カティは肩をすくめる。

「必要なファクターは必要な時に出すよ。」


…不穏な狩りは始まったばかり。

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