狩りに行こう。
薄曇りの春の日。
少し冷たい、爽やかな風が吹き抜ける。
西の空には消えかけた月が2つ、並んでいる。
日が出てまだ間もない時間。すでに2人とも胡桃の木下で待っていた。
「遅いぞ。」
カティが笑いながら言う。
「まだ夜が明けたばかりだぞ。」
俺は肩をすくめる。
ヨシュアは、無言で俺たちを見つめている。
3人は、胡桃の木下からコカトリスが出没するという雑木林へと向かう。
鬱蒼とした雑木林は、異様な雰囲気を放っている。
獣の痕跡はあるが、鳥の囀りなど生命の営みが感じられない。
静寂が辺りを包む。
カティは雑踏の中と同じく、自分以外のものが存在しないかのように、軽やかな身のこなしで歩みを進める。
ヨシュアは、多少の物音など気にせず最短距離を進む。
「ヨシュア、獲物に気づかれないように静かに歩け。」
ヨシュアは怪訝な顔をする。
「音を立てないことにリソースを割くのは、非効率だよ。」
それを聞いたカティは、肩をすくめる。
コカトリスのテリトリーに近づいて来たのだろう、石化したキツネ。
俺は状態を確認する。
毛の一本一本まで精密に作られた彫刻のようだ。
指で触ると、表面はざらついているが完全な石である。
付近の痕跡からして、石化されたのはつい最近のようだ。
付近を捜索すると、鶏によく似た、だが明らかにサイズがおかしい足跡が見つかる。
付近の木や下生えに、大型の動物が通った痕跡を見つけた。
茂みを掻き分け、痕跡を辿っていく。
…鼻をつくような異臭。
獲物との距離はだいぶ近い。
警戒心を高め、慎重に進んでいく。
「…。」
カティの異常を感じる。
俺は警戒を解かずに、カティの側へ近寄る。
「しくじったな…。」
カティの左手、指先から石化が始まっている。
ヨシュアは気配もなく、そばに来ていた。
「この段階であれば、僕の魔法で解呪出来るよ。」
異様に落ち着いた声。
…もっと慌ててもいいんじゃないか?
些細な違和感が浮かぶが、俺は無視する。
俺は周囲に警戒しながら、ヨシュアの処置を見守る。
…カティは、ヨシュアの目をじっと見ている。
ほのかな光に包まれたカティの指先が、徐々に血の色を取り戻していく。
ヨシュアは回復したカティの指先を感触を確かめるように触る。
「機能的な問題はない。」
ヨシュアは感情を込めず、喋る。
「機能的?」
口を開きかけた俺を、カティが手で制する。
「わしの注意不足だった。すまん。」
カティが答える。
「作戦行動への影響は軽微だ。」
感情を感じさせないヨシュアの言葉が宙に舞う。
カティの回復を確認した俺は二人に声をかける。
「一旦、体勢を立て直すぞ。」
俺達はその場を離れる。
周囲への警戒を解かずに、雑木林から離れる。
適度なスペースを見つけ三人は腰を下ろす。
ひとまず火を起こし、小型の鍋で湯を沸かす。
沈黙が三人の間に流れる。
俺は顎を触り、しばらく考えた後に口を開く。
「先程の場所の近くに獲物がいるのは間違いないな。三人でフォーメーションを決めて獲物を仕留めよう。」
二人は頷く。
「俺が先行して、獲物の位置を特定する。できればクロスボウで仕留めたいが、この雑木林では無理だ。」
ヨシュアが口を開く。
「僕も攻撃魔法が使えるわけじゃないから、直接的な攻撃は出来ない。」
「わしが攻撃魔法で突貫しても良いが、周囲への被害は保証できんな。」
…鍋の湯が沸いたようだ。
俺は茶を入れて、二人へ手渡す。
「罠に誘い込んで、動けなくなったところを仕留める。」
二人とも異議はないようだ。
「罠を設置した後、俺とヨシュアで獲物を追い立てる。罠にハマった獲物をカティが仕留めるってのはどうだ?」
ヨシュアが口を開く。
「わかった。」
カティは、どこか上の空だ。
俺は枯れ枝で地面に図を描く。
想定されるコカトリスの位置、罠の設置場所。
俺とヨシュアの位置、カティの待機場所。
俺は罠を設置するために先行して雑木林へ。
しばらくしたら、二人も所定の位置に移動するように打ち合わせている。
「ヨシュア、初級の攻撃魔法は使えるであろう。なぜジョニーに隠す。」
「隠すから、いいんでしょ…。」
カティは肩をすくめる。
「必要なファクターは必要な時に出すよ。」
…不穏な狩りは始まったばかり。




