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【書籍2巻発売中】どうやら私は悪役のようですね。それで?【第三部完結】  作者: 重田いの
新米女王編

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尋問②

 


 先導者ルカ・テオンは獣のように風呂にも入れず、立ち上がることもできない木製の頑丈な檻に入れられ都アリネスに連行された。彼の檻は軍馬ではなく牛に牽かれ、ただの荷物か売り物の子羊のよう。後ろを歩かされるその他首謀者たちは手錠をテオンの檻に繋がれて牛の速度で歩かされ、口々に呪詛を吐き出している。


 十三日間のゆるゆるとした旅の末、彼らは都に到着した。郊外の囚人塔の地下牢に入れられた。本来政治犯や貴族が入れられるところであるが、あまりに注目を集める犯罪者も収監される場所だ。


 その間にアレクシアはすっかり宮廷内の掃除をすませていた。旧来の特権にしがみつく者を利用しようとするのではなく、より先鋭化した少人数にのみ命令権を持たせ、彼らの下で働く官僚にこそ実務と権利を持たせる。枢密院の面々は宮廷に呼ばれることもなくなり、前王時代の議会のように存在を無視されていった。


「確固たる証拠もなしにこんな不当な使いは許しがたい」

 という声ももちろんあったが、反乱を鎮め、戻ってきた兵や騎士に惜しみない報償を与え、民衆の歓呼に応える女王に面と向かってそれを言える度胸などない。


 アレクシアはまず、負傷兵への医療費支援の増額と死者の遺族への見舞金から始めた。それぞれの手柄が複数の記録を照らし合わせ照合され、照合が終わった者から報奨金を得られる制度も始めた。これで嘘つきが大儲けすることはないだろう。


 いくつかの分野で国家予算が底を尽きそうになると、フュルスト商会から借金した。担保はミレタ地方の国有地である。森や川や山などだ。叛徒に荒らされた土地はこれから復興に入る。焼かれた村はより大きな町へ、破壊された船着き場や馬宿は国の使者も迎え入れられる宿舎へ、それぞれ再建される予定だ。新しい市場と税関を兼ねた監視塔を建設し、地方全体の流通を見直す。より大きな利益を得られる方向へ。


 それらの計画を建てたのはブレインフィールド伯爵の麾下たちだった。彼らはやがて、自分の計画を実現しにミレタ地方に赴くことになるだろう。


 帰還兵たちを出迎えるため、パレードが行われる。人々は口々に女王の寛大さを褒めたたえた。家族と再会した近衛騎士たち、故郷へ戻る農民兵たち、傷つきながらも誇りに満ち満ちて輝かしい顔の貴族たちが、アレクシアを仰ぎ見る。


「勝った、勝った、勝った!」

「報奨金がこんなに」

「給金が出た。本当に出た。前の王のときは三月待ちだったってのに」

「怪我した仲間の薬代が出るんだと。女王様が出してくれるんだと」

「うちの旦那、死んじまったけど見舞金が来たよ。これで子供らを育てられる……」

「今度の陛下は約束を守ってくれるんだねえ」

「しかも側近がやりたい放題したりしない!」

「金が入っても徴税官が来ないよ。無理やり取っていかれないよ」

「女王様は庶民の味方なんだねえ」


 勇者たちの帰還を言祝ぐ式典、地味な雑務処理に文官を割り当て、王家の印を押すべき書類にありったけ押した。王宮に軍人たちを招き入れてありがたいお言葉を述べ、目立った功績のある者にメダルを授与し、場合によっては平民に爵位を、貴族に名誉職を下賜する。あとは酒と踊りと音楽の祝いの宴である。社交界もこのときばかりは普段の慎みを忘れたようで、貴婦人たちは普段なら目もくれない平民出の兵士たちを褒めそやした。


 忘れずレイヴンクール公爵家にも手紙を送った。あなた方が国境を見張っていてくれたので、こんなにも早く内乱は片付きましたよ、と。親しき祖父といえど礼儀は必要である。


 フィリクスはまだ帰ってこない。一番の功労者といっていいのに、逆にそれが戦後処理を押しつけられる理由になったのだから笑えない。彼女は彼の無事をこの目で確認したかった。それができないもどかしさと、胸がわくわくするほどの誇らしさ。彼が戻ってきたら、彼のためだけに一度宴を開いてもいいかもしれないとさえ思う。


 だが今はより対処すべきことがある。いくつかの式典と夜会をこなすのに三日をかけたあと、アレクシアは本当の問題に対処することにした。アリネス郊外の囚人の塔へ赴くときがきたのだった。


 そうして夕暮れどきに忍んでいった。人々は女王がひそやかに祝宴を抜けたことに気づかなかったし、その地味な馬車が帰還する兵たちの列の脇を通り過ぎたことに注意も払わなかった。


 塔はまがまがしく都の北にそびえ立ち、アレクシアの勘違いかもしれないが夕日を照り返して血の色に輝いている気がした。


 牢番は女王を地下牢へ案内する。先導者テオンは、唯一地下二階に拘束されていた。階段を降りるうち、コツコツと足音が不気味に反響する。後ろに続く護衛騎士たちの足音より軽やかなアレクシアの足音は、かき消されそうだった。


 地下牢には鉄格子が嵌った顔のサイズの覗き窓がある。施錠された鉄の板ごしに、歌声が響いていた。アレクシアは眉を顰める。何かが引っかかった。知っている――覚えている旋律に似ていた。


(あ)

 ドラえもんのテーマソングじゃん。あんあんあーんの方。


 えええ。

 女王が立ち止まったので、先導する牢番をはじめ一同もまたそうする。


「陛下?」

「え、ええ……」

 驚きすぎるとこうなるものか、アレクシアが再び足を動かせるようになるまでしばらくかかった。

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